鎌倉ぽくぽくー朝の話ー

 私は鎌倉が好きだ。あまりにも好きで、すぐに鎌倉に行けるように神奈川県に住んでいる。
 最初は普通に観光を楽しんでいたが、最近では県内だからこそ思い立ったらすぐできる楽しみ方を覚えた。それが、朝ご飯を食べに行くことである。
 鎌倉は、朝ご飯がアツい街だ。とは鎌倉で観光がてら食事を、と思って調べるうちにすぐに分かった。何しろ、営業時間がやけに早い店が、駅周辺を中心にいくつもある。
 朝7時、8時営業開始、モーニングあり、という店が、チェーン店ではなく個人の飲食店でよく見られ、しかも中には長蛇の列ができる店まであるという。だが、以前の私は、「休日に早起きしてまでご飯食べに行くのもなぁ……」と、朝ご飯を外食することに興味はあるものの、なかなか思い切ることができずにいた。

 その考えが変わったのは、新型コロナウイルスの流行のせいだった。あまり人の多い場所に行かないように、人と会わないように、観光地で遊ぶなんて……という風潮に、2020年から世間の雰囲気が変わったのだ。

 だが、だが、しかし。

 人間にはハレとケが必要である。

 ハレという非日常があるからこそケという日常を踏ん張る力が生まれ、日常を頑張るから非日常を楽しむことができるのだ。

 と、少し偉そうなことを言ってみたが、まぁ、率直に言って、外食がしたかった。

 普段は自炊だが、コロナ流行前は週に1回程度、外食をするのを楽しみにしていた。
 自分が作ったのではない、自分では作れない、おしゃれだったり手の込んでいたりする料理を食べて、満足感を味わうのが好きだった。
 また、特に下調べをせずにふらりと初めての店に入り、美味しかったりちょっといまいちだったりする料理を楽しむのも大切な時間だったのだ。

 コロナのせいで緊急事態宣言が出ていた頃は飲食店が閉まっていてそもそも外食もできない事態だったし、自分自身も感染しないように注意はしていた。
 だが、一旦緊急事態宣言が明け、徐々に営業再開していく飲食店を横目に外食を我慢し続けるのはストレスになっていった。
 テイクアウトやコンビニのお弁当など、普段の食事とは違う物を食べることで何とか外食気分を味わおうとしたが、それにも限度がある。

 自宅ではない場所で、店主のこだわりの伺える内装に囲まれ、自分ではない人が作った美味しい料理を、綺麗な器に入れてもらい、あつあつのうちに食べる。これはテイクアウトでは満たせない楽しみなのだ。

 一方で、人の多い場所に出かけていくなんて、感染の危険性の高いことはやはりためらわれた。鎌倉は観光地なのだから、どこから来たかわからない人が大勢集まれば感染の危険性が高まるのは言うまでもない。
 人の多い場所は避けたい。でも、外食はしたい。

 そう考えた結果が、「朝ご飯を食べに出かけよう」になった。

 朝の7時半頃に鎌倉駅に着くように行動すれば、まだ観光客もまばらである。そしてそんな時間に空いている店は、数人入ればいっぱいになってしまうような小さな店かコンビニくらいで、朝ご飯を食べてからレンバイなど早い時間から開く市場で野菜を買い、観光客が多くなる昼前に帰路につけば、外食欲を満たしたついでに日常の買い物も済ませられるし感染の危険性は低いし一石三鳥くらいになるのではないかという結論だった。

 そうと決まれば早速実行と、現在に至るまで、あちこちの朝ご飯営業をしている店に行った。

 甘味処あかねの店内で朝だけやっている朝ごはんはしらす入りのオムレツが美味しく味噌汁は具沢山で野菜の甘みが最高だったし、叙序圓のよだれ鶏、ザーサイはお粥によく合い、しかもちまきを付けられて台湾っぽさを楽しめた。朝からマンゴージュースを頂く、なんていうのも乙な物である。
 ユカゴハンは野菜中心の小皿料理を少しずつ全種類食べられるセットを頼んでも1000円程度とお手頃で、南瓜の煮物などを食べながら、こういう手間がかかる野菜料理、家では作らないなぁと少し反省した。
 コーヒーと朝食(これが店名である)は、初めて行ったときはパンケーキにカリカリのベーコン、とろっとしたオムレツに飲み物が2杯とミルクジェラードがついており、「オシャレな朝ごはんが食べたい!」という欲求を完璧に満たしてくれた。特にカリカリのベーコンは理想通りだったし、カフェラテを頼むとコーヒーアートで出してくれるので、私には似合わないレベルのオシャレさかもしれないと思うほどだった。それから2度、3度と足を運んだが、ドイツの大きなソーセージを挟んだホットドッグは、ソーセージがジューシーでハードなパンによく合っていたし、やそば粉のガレットはそば粉と鶏肉とリンゴという驚きの組み合わせなのにしゃきしゃきとしたリンゴともちもちとした生地、鶏肉の塩気が調和してやはり美味しく、全く普段の私に縁のないおしゃれな朝ご飯、そして美味しいコーヒーはいつも満足感を与えてくれた。
 また、フードスタンドマガリのトーストとコーヒーも美味しさとおしゃれを兼ね備えていて、何度でも足を運びたくなる。
 CHOCOLATE BANKのモーニングは、エッグベネディクトなども美味だが、やはりチョコレート好きとしてはマカダミアナッツのクリームと削りチョコレートがたっぷりかかったパンケーキが忘れられない。しかも、ドリンクとは別に小さなカカオドリンクもついてくるのだ。

 鎌倉駅からは少し離れるが、深沢にあるPOMPON CAKES BLVD.も忘れたくない一軒である。昔、鎌倉駅周辺で移動販売をするケーキ屋だったのだが、店を構えていつでも同じ場所でお菓子を買えるようになっただけではなく、モーニングやカフェも楽しめるのだ。
 キッシュのやアサイーボウル、トーストのモーニングに何杯でもおかわりできるコーヒーで目が覚めるし、ショーケースにケーキやお菓子が残っていれば、モーニングの時間でも席でいただくことができる。
 素朴な印象だがしっかり美味しくて個性的なお菓子は、何度でも足を運んで買いたくなる。

 まだまだ行っていない有名店(たとえばCOBAKABAも鎌倉の朝ご飯でおなじみだがいつも中を覗くと満席に近いので避けてしまっているし、ヨリドコロの干物が美味しそうだが50食と言われると間に合うのかなと思ってしまってまだ行っていない)や予約の必要な店、まだあまり知られていないが新規に開店した店などがあり、朝ご飯の旅は全く終わりが見えない。
 それはとてもうれしいことで、次はどんな朝ご飯に出会えるかと楽しみがいっぱいである。

 そのうち、世界一の朝ご飯で有名なお店に行ったり、移転してしまったお店の再訪もしたいのだ。

 こうして朝ご飯探訪を続けているうちに、コロナのワクチンができて、何となく緩んでもいい……ような気になっているが、実はまだまだ気の抜けない社会である。それでも何とかコロナと共存できる世界になるのを待ちながら、楽しい趣味の一つとなった朝ご飯の旅を続けていきたいと思っている。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?