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日本は養殖後進国?日本の養殖漁業をアップデートする「フィッシュファーム産業」の挑戦 vol.1

SUNDREDの新産業共創プロジェクトの一つ、「フィッシュファーム産業」。ECサイト「CRAFT FISH(クラフトフィッシュ)」での商品販売も含めて、養殖でおいしい魚をつくるという挑戦を続けているさかなファームの現在について、同社の取締役である原さん・國村さんにお話しをうかがいました。

●プロフィール
・原 和也  SUNDRED株式会社 パートナー / 株式会社さかなファーム 代表取締役社長
・國村 大喜 株式会社さかなファーム 取締役

フィッシュファーム産業の成り立ちについて、教えていただけますか?

原:2019年7月にSUNDREDが本格的に始動するキックオフMTGがありました。この場で、SUNDREDとして取り組んでいく新産業プロジェクトのアイディアを話し合ったんですが、その候補の1つにフィッシュファーム産業があったんです。で、非常に可能性がある産業だということになり、私がプロジェクトマネージャー役を担う形で動き出しました。

私はもともと魚に関する仕事をしていたわけではなかったので、フィッシュファーム産業を大きくしていくにあたり、いろんな人に会ってインプットをいただいておりました。半年くらいかけて人に会って、必要な情報を得て産業を成長させるためのエコシステムを描いていきました。
フィッシュファーム産業の全体像をどのように描くべきで、そのためにはどういうプレイヤーが必要で、欠けているプレイヤーも見えてきた。その結果、フィッシュファーム産業を成長させるエンジンとして2020年4月に、新会社「さかなファーム」を設立しました。

プロジェクトが動き出して1年経たずに会社を設立されたんですね。

原:はい。会社ができてからは、動きがさらに加速しています。生産者にどんどんお声掛けし、食材の魅力を最大化するプロフェッショナルであるシェフにもお声掛けし、「魚をもっとおいしくするためには?」「より付加価値をつけるためには?」「たくさんのお客様に食べていただくにはどうしたらいいか?」といった課題を皆さんのお力を借りながら進めてきています。いろんなレイヤーで協力し合える仲間集めができてきたというのが今の状況です。

國村さんがさかなファームにジョインした経緯も教えていただけますか?

國村:私は新卒から富士通デザインのインハウスデザイナーでした。
魚とのつながりは、子どものころから琵琶湖のそばで育ったということもあり、常に家には魚がいて、毎週末に釣りに出かけるというのが日常で。社会人になってからも、魚釣りはしていましたが、そんな中でどんどん釣れる魚が減ってきていることに課題を感じていたんです。

そんな時に富士通全社のビジネスコンペがあり、養殖管理システム「Fishtech養殖管理」を共同提案し最優秀賞をいただき、社内事業を立ち上げました。もともとソフトウェアのデザインや設計を行っていたことを活かして、クラウドサービスを構築しお客様に導入するところまで事業を進めることができました。

魚や養殖を仕事にできたわけですね。

ただ自分の本心である「世の中の魚を増やしたい」「天然資源が枯渇しない世界を作っていきたい」という目標に立ち返ったときに、システム開発だけでなくもっと広い軸で魚の産業を興したいと思うようになっていきました。その過程で、原さんや静岡でキャビアの陸上養殖を手がけている金子コードの金子社長に出会い、さかなファームを立ち上げるというお話をいただき、会社員の枠から飛び出して、独立することを決めました。

スタート時の課題感や目的を共創する過程では、どんな議論がされていましたか?

原:「海洋資源が枯渇しつつある」という話は、すでに広く関係者の間で共有されていることだったので、どこが課題なのかということではなく、どう解決したらいいのかというところから議論はスタートしました。その過程で小さいながらも成功事例が出てきましたね。例えば、もともとは電線などを手掛けるメーカーだった金子コードさんが、養殖で製造したキャビアがエリザベス女王に献上されたなんていう話があるんです。

養殖というと、一般的には天然モノに比べて品質が劣るというイメージがありますが。

原:決してそんなことはないですね。他にも、國村さんが富士通デザイン時代からサポートされている北海道の神恵内村のウニの生産者さんもいい事例です。

國村:神恵内村はかつては漁で栄えた港町でしたが、魚が採れなくなり寂れていきました。そこにテクノロジーを持った企業群が村に入っていくことによって、「陸上養殖」という新しい産業がうまれて、徐々に活気づいていき、地域の目玉産業に成長しつつあります。陸上養殖は「地域創生」という文脈にもつながっていくんです。


日本の水産業の漁獲高のピークは80年代くらいで、そこから世界との比較においては、特に養殖の分野で日本が追い抜かれていたというデータはかなり衝撃的でした。

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漁業・養殖業の生産量の推移(農林水産省「漁業・養殖業生産統計」)

原:日本は魚がたくさん獲れて水産大国というイメージが強いですが、数字を見るととっくにリーディングプレイヤーではなくなっています。かたや世界の水産業に目を向けると、多くの国が養殖に力を入れ、右肩上がりで伸びいてる。日本と世界で起きていることのギャップがあり、多くの日本人は気づいていません。

ある生産者さんが危機感をもってお話をされていましたが、日本の養殖は特にアメリカに比べて約40年遅れていると。これまでとは異なるアプローチで取り組む必要があるのですが、日本が養殖にこれまで目を向けてこず、養殖はおいしくないという偏見も根強い。魚がたくさん獲れてきたということが逆にディスアドバンテージになっています。

國村:私は水産の世界を学びなおし、日本が世界から非常に遅れていることを知って驚きました。機械工学を勉強してきた中で、漠然と日本の技術はNo.1なのだと教育を受けていましたから、日本は技術の面で海外に劣ることはないと安心していた部分がありました。
でもノルウェーの水産業の展示会にいくと、日本でいうIT系のイベントのような活気で、お金があって潤っていて、さらに設備投資をして、自然も保護していくといういい循環がありました。このような取り組みが、日本の漁業を復活させるヒントになるのではないかと考えています。

國村さんは、企業の枠を離れ独立されてみていかがですか?活動範囲は変わりましたか?

國村:これまでの社会人人生で培ったご縁もあり、より広い取り組みができるようになったと実感しています。養殖生産にとどまらず、最終製品のブランディングや味の調整といった「何をどうやって売っていくか」という川下の部分までスコープに入れて動いています。魚の価値を高め生産者に還元し、それにより養殖産業全体を成長させていくためにはサプライチェーン全体をカバーしていく必要があり、そこがさかなファームの核心部分です。

原:具体的には、さかなファームでは、魚をもっとも美味しく調理してくれるスターシェフのネットワークをつくり、彼らの意見を参考にしながら生産・流通の工程にフィードバックするということをやっています。このような取り組みは初期のころから、サクラマスの養殖をされている「Smolt」など生産者各社の協力を得て築いてきたものです。

さかなファームを中心に、陸上養殖のステークホルダーがどんどん集まってきているんですね。

原: 「さかなファーム」という法人を立ち上げたことで、皆さんに本気度が伝わるようになったのもあるのでしょうか、生産者、料理人、大手の製造業、関連技術をもつ会社などともどんどん話を進めています。2019年7月にプロジェクトの原型が立ち上がってからの一年半を振り返ると、後半になればなるほどスピードが加速していますね。

先ほど話に出た「Smolt」さんが手掛けた「つきみいくら」を食べさせていただきました。あのような商品が日本にあるのだと驚きました。

原:「つきみいくら」は決して、安い商品ではありません。が、養殖産業をスケールしていくときに大切なことは、商品1つ1つの質を上げるということ以上に、その質に見合った適正な価格でたくさんの人に買ってもらい、生産者にお金が戻っていく「売る」ところだと思っています。スーパーの安売り商品と同じ土俵に立つのではなく、養殖が価値をアピールしやすく、お客様にわかりやすく価値を受けとめていただく形を模索して、今回の「つきみいくら」のような商品をいろいろ仕込んでいっている状況で、これがさかなファームの活動の勝ち筋だと思っています。

つきみいくらをECで始められていますが、Eコマースはビジネスプランとしては入っていましたか?

原:養殖の良さやストーリー、生産者のこだわりについて伝えられる売り場としてのECは、かならず必要だと感じていましたし、初期の事業計画に入っていました。ようやく2020年9月にプレオープンできました。今後、さまざまな生産者と連携し、商品ラインナップを拡充していきたいと考えています。

- 魚の付加価値を上げるという観点では、先ほどおっしゃっていたスターシェフとの連携もユニークな取り組みです。

生産者がつくったおいしい魚を我々がスターシェフにお届けすると、毎回必ず想像していない発見が生まれ、商品化のアイデアが芽生えるんです。言ってみれば「魚をつくる天才」と「料理の天才」を掛け合わせているので、これまでになかった生産、流通、販売、消費のバリューチェーンを生み出せると確信しています。

スターシェフを巻き込んでいくためのポイントはどんなところですか?

原:実は以前から同じ課題感を持っているということで、ご協力をいただけるケースがほとんどなんです。特にキャリアを長く続けていらっしゃる方になればなるほど、昔と比べて、同じ価格で手に入る魚のクオリティが下がってきていることが分かっているので課題感が大きい。つまり何かしなきゃと思っている人は多いのですが、料理をつくることと魚を増やすことの距離は遠くて、フラストレーションを抱えていらっしゃる人が多かったということだと思います。

國村:シェフ自身も本当は取り組みたかったが、取り組めていなかったことが多かったんだと感じましたね。それぞれ専門分野をもっている人も、大きな課題があるときに自分の領域を超えて物事を変えていくのは難しい。だからさかなファームのような会社が複数の領域に対していっしょに解決しようと言って人を集めていくことが重要なんですね。SUNDREDの「領域を越えて新たなエコシステムをつくる」というイノベーションに対する考え方が、新産業づくりの核心なんだと思います。

SUNDREDでは、領域を越えて新たな価値をつくる人のことを「インタープレナー」と呼んでいますが、生産者やシェフ以外にどんな人がいらっしゃるかを教えてください。

原:フードライターのように世の中に魚の価値を広めていく方、新しい商品やイベントを企画するといったことに長けた方、戦略コンサルタント会社で働いている方が、魚が好きという想いをもって動いている方もいらっしゃいます。

國村:性別も年齢もバラバラなんですが、実働部隊は34〜35歳の人が多い。何かにチャレンジしたいと思う年齢なのかもしれませんね。

フィッシュファーム産業

株式会社さかなファーム

CRAFT FISH(クラフトフィッシュ)