裏庭の死んだ人 3

 何か嫌なことがあった日は、必ず大学近くの公園に行くことにしている。公園の真ん中には大きな池があり、対岸見つめてぼーっとしながら、16年前にこの公園でバラバラにされた人間について考えるのが僕の一つの習慣になっていた。幼い頃母親が僕に
「あなたは大丈夫よ。何が起きてもきっと大丈夫。」
と言っていたので、おそらく僕は死なないのだろうけど、もし死ぬとしてもバラバラにされる死に方だけは勘弁だ。痛そうだし。
 浮浪者(?)と話したあと、家にも大学にもいれなくなった僕は公園に向かった。彼との会話が嫌な事だったからだ。
 大学から15分ほど歩いて公園に着き、そしていつものようにぼーっとしていた。しばらくはいつものようにあの事件について考えていた。犯人を推理するといった特別な目的がある訳では無いがこれが一番楽しい。ただ楽しさに限界はあった。僕はこれをもう一年以上続けているのだ。急に我に返り
「何をしているんだ俺は。」
と思った。それでもう公園を出ようとしたとき、突然電話がかかってきた。それは僕と同じ高校から僕と同じ大学に行ったA子からだった。彼女は何かと僕を気にかけてくれる優しい友達だ。タイミングが悪いなと思ったが、僕は彼女が大好きなのでとりあえず出てみることにした。
「もしもし。」
「もしもし。ねえ、もしかして今公園にいる?」
「いるよ。もう帰るところだけどね。」
「向こう見て。私もいるわよ。」
そう言われて目を凝らして探すと、こちらに向かって手を振っている人間がかすかに見えた。そして隣にはもう一人誰か見えた。
「えっと、、。つまり僕はどうすればいい?」
「こっちに来なよ。」
「、、。」
そう言われ僕は大人しく公園の周りを半周した。
「A子ー。」
「よお。」
「何してたの?」
「別にー。そんなことよりなあお前は元気だったのか?最近全然あってなかったけどよお。」
たまに出る彼女の男らしい口調が僕は大好きだった。
「まあぼちぼち。」
「そうか。まあならよかったぜ。」
「え、、えっと、隣の彼は、、。」
彼女の隣には誰かいた。
「あ、こいつ?こいつは、、えっとねー、私の弟。」
「あ、そ、そうなんだ。」
勝手な予想が外れて拍子抜けした。
「こんにちは。お姉ちゃんの友達です。」
安心した僕は彼の顔を覗き込み、必要以上に歳上感を出して彼に話しかけた。
「ども。」
弟は愛想悪くこう答えた。
「シャイだね。えへへ、僕もそうだよ。」
僕はムカついて更にウエから言った。
「、、。」
弟の愛想のなさに驚いて、僕はA子の方を見た。彼女はヤレヤレという表情で苦笑いした。
僕はもう彼を相手にするのはやめて、背を向けてA子と話し始めた。
 それから結局一時間くらいA子と話してしまった。久々に話したので会話も全く尽きず、帰ろうと思っていたのも忘れていた。彼女の弟は完全に無視して話したが、終始気になってはいた。弟の、センスのない汚い色に染められた髪の毛と、何か深いことを考えていそうで何も考えてないような表情が妙に神経を逆撫でしたからだ。それで僕は一発彼をぶん殴ってから公園を出た。
 帰り道、A子は少し気まずそうな顔をしていた。僕に殴られ公園でのびている弟を気にかけているようだった。そんな彼女に僕は
「弟くんさすがに女々しすぎるよ。A子はこんなに男らしいのに。」
と言った。
「別に私は関係ないでしょ。」
彼女は少し怒っているようだ。
「昔からあんななの?」
「さあ。」
「太極拳とか習わせた方がいいよ。」
「、、。」
彼女の曖昧な返事に僕も腹が立ってきた。
「俺に電話して、あんな弟見せつけて何がしたかったの?」
「彼を酷く言わないでよ。」
「何よりダサいよ。弟くん。」
「うるさい!」
「え、怒ってる?君が怒る理由、ないよ?」
「、、。」
彼女は突然歩くスピードあげた。でも特に追いかけるというわけでもなく、僕は彼女の背中に向かって
「じゃまた。」
と言った。彼女は無視して歩き続けた。
 やっぱり、僕はA子が大好きだ。

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