見出し画像

故郷の桜よ

その昔、私が通っていた奈良市立三笠中学校の裏手には、佐保川という川が流れていて、よく冬の体育の時間などにはその土手を走らされたものです。

当時は、まだ無舗装の土手でとても走りづらかったのを覚えています。
雨が降った後などは、あちこちに水溜りができて、ぬかるんでいて、靴が汚れるし、散々でした。
そして、その土手に小さな苗木が植えられていたことも覚えていました。

あれから40数年が経った今、あの苗木たちは立派な桜の樹に育ち、今では桜の名所とされていて多くの人が桜の見物に訪れる場所になっています。

1年に1度は奈良に帰って、施設で暮らす母の様子をうかがって、故郷の気が置けない友人達と酒を酌み交わしながら近況報告をし合おうとなんとなく決めているのですが、今年は桜の時期に帰ろうと随分前から考えていました。桜が満開になった佐保川の岸辺をまだ実際に見たことがなかったのです。

母が施設に入ってから空いていた私の実家には、一昨年に結婚した甥夫婦が今は住んでいるのでホテルを取らなければなりません。
コロナ規制がなくなり、奈良には多くの観光客が戻ってきているというのは聞いていたので、4ヶ月ほど前から探し始めましたが既に満室のホテルも多く、残り1室というホテルを見つけてようやく取ることが出来たような状態でした。
ただ目当ての場所には徒歩で行ける好立地。
帰省の日程が近付くにつれて桜予想を時々チェックしながらとても楽しみにしていました。約3週間前の予想ではバッチリ満開のタイミングに当たっていて期待はさらに膨らんでいました。

しかし、東京でもそうでしたが、その後急に冬のように寒い日が何日かあり、桜の満開予想は大きくずれてしまったのです。

快晴の空の下、佐保川の遊歩道に立っていた私は、一本の木に10輪ほどしか咲いていない桜を眺めていました…。

気を取り直して、これも前から決めていた大神神社の登拝に翌日行きました。大神神社の御神体は三輪山という山で、そこに登ることが出来るのです。到着してまず登拝の受付をしなければならないのですが、案内板に「三輪山登拝受付午前九時から正午まで」の文字が。着いたのは12:20頃…。

微妙にタイミングを外してしまうのが今回の帰省の隠れテーマだったのでしょうか…。

ただ、会いたかった友人達には皆会うことができて、たくさん話をして、すごく元気をもらって、まだまだ頑張ろうと強く思うことができて、こちらは大充実でした。

数日後、私の携帯には桜が満開の佐保川の写真が送られてきました。

それを見て思ったのです。まだ故郷の満開の桜を見るのは早かったのかもしれません。

だって私はまだ夢に向かう道の途中ですから。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?