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小説『幸凶死編』

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この小説は薄暗く、抽象的で、読んだ人からは不思議な感覚だと言われるものです。全10話、10万字前後の作品です。  きっと万人受けではないです。暗い作品ですので、読み手には不快感…
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記事一覧

第1話「何者かによって復元された手記」

 ――人間は、人間と共に生活をする。  ――人は、人と人間と生活をする。  人も人間も、…

忍原富臣
3年前
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第2話「感覚共有―とある患者の日常―」

 殺風景な白い部屋に机と椅子が置かれ、ベッドが決められた位置にずっと変わらず佇んでいる。…

忍原富臣
3年前
3

第3話「言葉の選択―とあるカウンセラーの面会―」

 人間を機体に移植して脳を電子変換する。  メールでのやり取り、電話での応対は、もう過去…

忍原富臣
3年前
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第4話「螺子巻キライフ」

 直径五十メートル弱の広い円形の館の中、壁面に敷き詰められた棚に綺麗に並べられたオルゴー…

忍原富臣
3年前
3

第5話「エラーリスト―file:01―」

 今年で三十六を迎え、愛しい妻と、可愛い子どもに囲まれ、仕事も業績を伸ばし、それなりの地…

忍原富臣
3年前
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第5話「エラーリスト―file:02―」

 世界終演、終焉、それとも終幕とでも言うのだろうか。  この際どちらでも構わないのだが……

忍原富臣
3年前
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第5話「エラーリスト―file:03―」

 人里離れた山奥で、両親は猪や鹿を狩って生活をしていた。  その行動を「生きるためなのだ」と、悲しさに泣く十五の私に母が教えてくれた。  男が生まれず、女の私に父は狩りを教え、母は家事を全て教えてくれた。  初めて狩りをした時、血まみれの鹿を触った瞬間に吐いてしまった。  洗濯物を干すときは、冬場であかぎれがひどくて、母のくれた油をひたひたになるまで手に塗り込んだ。  テカテカしたそれを見るのはなんだかあまりいい気持ちがしなかった。  二十になる頃、父は時々、私をじ

第5話「エラーリスト―file:04―」

 穴を掘り、人の死体をその中へと入れて埋葬する。  両手を合わせ、村人全員で言葉を合わせ…

忍原富臣
3年前
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第6話「死後転生」《上》

 もう何度目の死なのか、数えることも諦めた。  死んで目が覚める度に、身の回りの環境が様…

忍原富臣
3年前
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第6話「死後転生」《下》

 生きとし生けるもの、全ては平等に朽ち果てていく。いくらその進行を遅らせたとしても、やが…

忍原富臣
3年前
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第7話「世界的質量保存の法則」上

 今日も世界は休まずに回っている。  人が苦しんでいることも知らずに動き続けている。  …

忍原富臣
3年前
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第7話「世界的質量保存の法則」中

 車内から外に出たことで、より一層冷え込んでいく空気が、口から白い煙を吐き出させる。  …

忍原富臣
3年前
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第7話「世界的質量保存の法則」下

 数分間、沈黙が続く。  主人は煙草を吸い、遠くの空を見上げている。  忘れていた寒さが…

忍原富臣
3年前
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第8話「食欲不振な人間不信」上

 一週間前、親友に裏切られたことを知った。  ――――親友が自分のことを騙していたと知った時、そこまで落ち込むことはなかった。そして、自分が人を信じていなかったのだと自覚した。  六日前、食べる事が少なくなった。  ――――食べる事の意味を理解して最低限の食事になった。食べることは生きることに繋がり、それは、私にとって不必要なことだった。  五日前、職場で胃が痛くて仕方がなかった。  ――――何もない胃袋が可哀想になったけれど、それでも食べる気はしなかった。生への欲求は、