砂川文次「小隊」 感想

戦争という圧倒的な現実、遅れて実感する恐怖。

自衛隊という「職業」からすれば、戦闘を含めた諸々の行動は全て「業務」である。
主人公である安達は、戦闘という言葉に実体を感じることができなかった。
それは安達だけではなく、他の自衛官も、当たり前だが実戦未経験という意味では読者たる私も同じである。

しかし、一度戦闘が始まれば嫌でも理解させられる。
淡々と業務をこなすことで達成できるような現実はそこにはない。
地形を変えるほど降る迫撃砲の雨が耳を劈き、さっきまで談笑していた仲間を文字通り粉砕する。
小銃の弾丸が部下の頭に入り込み、散々暴れ回って肉片だけを残していく。
そこここに人間だったものの肉片が、多摩川のバーベキュー場よろしく飛び散っている。
一瞬後には自分がそうなるかも知れない。
生きている方が奇跡だ。
常に混乱して何もかもがわからない中で、ロシア軍、そして自分の恐怖と戦う。

元自衛官の砂川文次だからこそ書けるリアルな物語。
事実と心理の描写がとにかく巧みで、嫌でも伝わってくる緊迫感から心臓が常に早鐘を打っているように感じた。
戦争物の作品はいくつか観たし読んできたけれど、ここまでリアルな感覚を得られるものはなかったと思う。
どこか英雄譚チックな物語になってしまうがために、現実感が阻害されるのだと思う。
本作品には英雄なんて出てこない。
どこまでも泥臭く、噛めば砂利の感触があり、栄光なんて硝煙や爆煙で見えない。
そこにあるのはただ戦争という圧倒的な現実であり、そこにある状態は生か死かどちらかしかない。
時勢的にもかなり現実と地続きになっている本だと思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?