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JOLENTA WYDAWCA 【短歌七首抄】

でも、ずっと疑問だったんです。
この世は、最低と言うには魅力的すぎる。

『チ。―地球の運動について―』/魚豊
(ビッグコミックス)



ずっと手を振る人たちが遠のいて見えなくなってその繰り返し

硝子片ひろってあるく夕まぐれ何度踏み潰されたのだろう

火刑すらねじ伏せる眼だ掴み取るようにあなたも空を見上げて

遠さへと眼の焦点が合ってゆく釦をはめるようだと思う

硝子瓶叩き割る手を叩き割る手を見つめればかがやきのさなか

星月夜 くつがえることばかりだね背中に薄い手が触れている

乾いている指に指輪の真鍮のいのり そろそろ日がしずむころ



わたしは拷問をうけたことがなくて、その痛みを想像できない。彼女が町から逃げ出してから過ごした25年間は殆ど描かれなかった。小さな手が乾いていく。繰り返し思い出した拷問の苦しみは、いったいどれほどだったろう。

夜空だけを見ていたかった眼。

血や、他人の醜い顔を見る生涯を背負って立つ、それでも凛とした背中。

彼女が話さなかった夢の数々を思う。



『硝子回覧板』という本に載せた連作からの7首抄。


読んでくださってありがとうございます! 短歌読んでみてください