見出し画像

アイデアは突然やってきて、当然、玉砕されていく

昨日、Twitterを眺めていたら、これが目に入ってきた。

サブスクリプションモデルを自動車メーカーがはじめたもののようだが、車のリース自体はまったく新しいサービスではない。
ただ、車はライフスタイルに応じて買い替えていく必要がでてくるので、「所有する」という概念が古くなり、変わっていく可能性があるのだろう。

そう考えながら、これを自分の業界、仕事に置き換えてみることにした。

泣く子も黙るお墓である。

ここでまず、お墓は所有するものであるのか否かについて整理しておきたい。

一般的に、お墓を持っている人は「家のお墓」として所有していると思っているが、そのお墓が建つ墓地は、基本的には「使用権」を得ている状況にある。

なので、墓地の管理費の未払いが続いたり、承継者がいなくなると使用権を失い、墓は無縁墓として扱われることになる。

だから、購入して建てた墓石も所有物と考えるよりは、墓地とセットになっているので、使用権で考えていくことになる。

そのため、墓を守る人がいなくなることが分かると、その墓を片付け、墓地を返却する墓じまいが増えてきている。

とまあ、これが今のわたしたちの業界の大まかな流れである。

ここまでの流れでわかるのは、墓石が使用権とセットになっていることからも、そもそもお墓はサブスクリプションモデルと相性が良いということだ。

だが、お墓は自分に近い親族が眠るものだから、所有するものだという価値観が根付いていることもあり、墓石を建てるときにローンを組む率はとても低い。

現金社会だからかもしれないが、アメリカ人が墓石購入でローンを利用するのが約4割なら、日本人は1割程度で、墓石のクレジット利用率はきわめて低い。基本的に一括購入して、「うちの墓を建てた!」と実感できるようになっている。

そこでわたしが考えた画期的な(だと思った)アイデアこそ、サブスクリプションを墓に取り入れることだ。

先の日産のクリックモビとも似ているが、簡単にいうと、墓のリースだ。

車は墓と違ってローンで購入することは当たり前だが、それは車が必需品であり、クレジット会社と提携できているからだろう。
墓石は生活必需品とは違い、わざわざローンを組む必要性がないため、一般的にならなかったのだろうが、リースの「定額で持て、必要でなくなったら(リース期間が終わったら)返す」というシステムは、今のお墓の問題にもフィットしている。

なぜなら、お墓の悩みは「所有」と直結しているからだ。
お墓を建てた以上、その墓を誰が所有(じっさいには所有ではないが、便宜上、所有とする)していくかの問題がつきまとう。
また、簡単に移動させることができないため、墓だけがふるさとに残る場合もある。

それがリース契約になることで、墓を返却できるプランを作ることができれば解決するのではないかというのが、わたしの発想だったのだが、午前中に思いついたこのアイデアは、夕方には玉砕されることになった。

では、どのように玉砕したのかを追って説明しよう。

すでにサブスクリプションモデルが存在していた件

このビジネスモデルのターゲットになるのは、「墓の跡継ぎがいない」ことが現時点でわかっている、またはその可能性がある層になる。親や自分たちのために墓を建てたいが、建てても、自分(たち)の死後は墓だけが残ってしまうことだ。

こういった層は潜在的にも多く、墓をリース契約にすることで、契約が満了した時点で再リースするか、返却するかを選ぶことができる。
もし返却するのであれば、そのときには、永代供養墓(納骨堂、散骨など)への改葬がセットになり、すでにそのプランをリースに盛り込んでおく。

とここまでを話したら、同業である夫がこう言った。

「そういう人は、期限付き墓地を選べばいいじゃない」と。

おまえは、マリーアントワネットか。

「期限付き墓地」というのは、これまでの墓地が「永代使用」であったならば、使用権に期限を設けたものである。
そして、こういった墓地の特徴として、墓地内に納骨堂や永代供養墓が併設され、一定期間(使用期間)が過ぎると、そこに合葬される仕組みになっている。

「それはわかっているけれど、そういう墓地じゃない墓地に墓を建てる場合だよ」

期限付き墓地は、まだ全国的に広まっているわけではないので、墓を建てても墓守がいなくなったら、自分で何とかしなさい、といった自己責任で成り立っている墓地の形態も依然多い。そういった人が安心して墓を建てるためのリースなのだ。

「将来に不安を感じている人はそもそも墓を建てないか、最初から納骨堂や永代供養墓、樹木葬を選ぶだろう。それに、リース後に墓を返却して、別の場所に埋葬されるのなら、最初から同じ敷地内で移動するとわかっている墓地の方がいいに決まっているだろう。
期限付き墓地よりも勝っている点がどこにあるんだ?オレにはまったく感じられない」

いや、それは分かっている。そもそも期限付き墓地を運営しているところと競合しようとしているわけではなくて、自分たちができるお客さまサービスの延長で考えているのだ。

最近のお客さまの事例だってそうだ。
「親の墓を建てたいのだけど、そこに自分が入るかは分からない。親戚がすでに墓地を用意してくれていて、その隣に建てたいと思う。両親とあと一人入るくらいの小さな墓でいい」と。

これなんか、まさに将来的にそのお墓の跡継ぎがいなくなるケースで、これからはそういったことが多くなるのだ。だからこそ、リースで解決できるのではないか。

「親族と一緒に親が眠れる、それがそのお客さまの安心材料なんだよ。近くには親族が住んでいるわけだし、その先の心配をする必要がないだろうから、そこでリース契約なんか言ったら、不安を煽るだけで、むしろ余計なお世話じゃないか」

わたしが勘違いしていたこと

ここで気づいたのだが、わたしはあることを勘違いというか、失念していた。
それは、墓について考えるときの重要事項として、人はどこに眠るのかを知っておきたいということ。
いや、積極的に知りたい人ばかりではないだろうが、どこに眠るか分からないというのを、なるべく避けたい傾向にある。

これはお墓の仕事をして、わたしが一番最初に気づいたことだった。

だが、わたしの考えたサブスクリプションモデルでは、墓のリースまでは良いかもしれないが、墓の返却後の埋葬場所が、その墓地内ではないという点にある。それでも良いという人もいるかもしれないが、すでに同じ敷地内で墓を返却して合葬される期限付き墓地が存在するのであれば、そこを契約すればいいので、わざわざリース契約する必要性がない。

「そもそも、そういった先の心配をしなくても良い墓地を作る運営者は、死後の安心を提示するために、最終的に合葬形式の墓を用意した墓地をつくるという投資をしているんだ。
投資もせずに、リース契約だけでなんとかすると言っても、誰もそのサービスを欲しいと思わないだろう」

チーン、終了。

これまでも、保険のシステムを活用して、なんとかお墓を守るための手助けをできないかと考えたこともあったが、そんな面倒な仕組みを考えなくてもリースだけで問題解決できそう!と、解決モデルありきで考えた結果、玉砕した‥。

そして、さらに気づいたこと。
実はお墓って、ある意味では、一番所有したいものであって、自分たちが死んでも、そこに存在していて欲しいという願望もあったりする。
生きた最後の証として。

「所有」が悩みのタネになりながら、「所有」を願う人間の矛盾。
それを簡単に解決しようとしたこと、それ自体が大きな間違いだったのかもしれないなぁ。

※リースについて詳しいわけではないので、そもそもの前提が間違っているかもしれません。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?