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 今日もめかぶ、明日もめかぶ、明後日もめかぶ、芋虫のような指で数え、ポテチの油でぬらりと光る唇を微かに舐める。思えばネチネチとネチネチと様々な学年で学級委員長をやってきたなあ。一般職OLに雑巾の絞り汁を飲まされてもいいように胃袋も鍛え、可愛げのない奴だと熱血教師に腹の底で秘かに嫌われても、虫のような顔でやり過ごす。全ての受話器はクレームをつける為にあるのだと、現代の至言を独りごち、岩波文庫に収録されるつもりで丹念に相手の落ち度を問い詰めるのだ。あああ、こんな自由主義社会はつまらない、警察国家になれば朝昼晩密告を繰り返すのにな、オイコラ警察、路上でハードカバーの本を渡すあれは怪しいですよ、コードネームX、獄、ワライ。頑張って頑張って教室で夕日を浴びながらペンを滑らし国立大学に入ることができたのだ。官吏になって外套を着たい、その一心で知識階級としての一歩を踏み出すのである。外套を壁に掛け、ボルシチをズルズルと飲み干し身体を温める。陰気な顔の一般職OLとマグカップを持ったまま陰気な眼差しで意気投合し、名画座で並んで座り古い映画を眺めるのだ。凍えた太陽の日差しによって、それが新しい生活の合図であるかのように、ネチネチとしたコラムを書き始める。馬鹿丁寧に事態を説明し、それにより事態の愚かさを際立たせ、大げさに褒め称え、言外に侮辱してみせる。ジメジメとした地帯に生える茸のように生まれ落ちたい、その希望が筆の力で叶えられるかもしれない。ボルシチを飲まずとも身体が熱くなり、粘液のようなもので心が満たされる。みなぎる活力で裏庭のゼンマイを全て刈り取り、思わず納屋で放置されていた樽の中に入ってしまった。こんなことをしてしまうとは。興奮していた。闇の中で濁った眼を見開く。人々のほんの些細なことが点と点を結び、侮蔑と嘲笑の対象として姿を現してくるのだ。無限にコラムが書けそうだった。足に絡みつく蔦のように文章を連ねるのだ。低い笑い声が裏庭から流れ、錆びたドラム缶などを通過し、寒空に溶けてゆくのだった。

(作成:2012/05/20)

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