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 左遷先ではネクスト大臣という役職に就いた。家の壁にスプレーで「ネクスト大臣」と吹きつけられていた。社内では大臣ではなく、ネクストと省略されて呼ばれている。ネクスト、確認お願いします。確認してもしなくてもいいものを確認する。マキグソとかスネ夫の落書き持ってくるんだぜ。それ、真面目な顔で確認するわけよ。Facebookにネクスト大臣就任って書くかどうか迷っている。会社名だけでいいか。でも大臣だから誇示してみたい、そんな思いもある。若いのが左遷されてきてネクスト副大臣になった。貧相で青白く、死んだ野菜のような男だ。俺に似ている。Wネクストと呼ばれるようになった。囲碁や将棋はやるのかね?食堂でネクスト副大臣に尋ねた。そういうものはやらないのだという。その代わりマリモを育てているらしい。「ほう」と感心すると、「楽しいですよ、でもね」ネクスト副大臣は持参したストローでカップのコーヒーをズルズルと飲み干してから続ける「生きてるのか死んでるのかわからんのです、だけどいずれ巨大化することを信じて眺めてるんですよ」。俺とネクスト副大臣の食堂での会談は盗撮されており匿名のTwitterで拡散された。社屋のどこかに匿名Twitterの主がいるのだ。俺とネクスト副大臣は背中合わせに立ち、鋭い目で社内を見渡す。だからといって何ができるわけでもなく、日経新聞を読んでやり過ごす。ネクスト副大臣のマリモに賭けるしかない。あれが巨大化すれば、何かが変わる。ガスタンクより大きくなったマリモを夢想する。申し訳ないネクスト副大臣、君は寝ている間に押しつぶされるんだ。だからマリモはネクスト大臣である私の管理下に置かれる。ガスタンクより大きいマリモが俺のものだ。俺はネクスト副大臣の墓参りをしてからビル群の中でゴロリと座るマリモを眺める。さらに大きくなるんだ、頼むぞ。ギュッと拳を握りしめたところで夢想から目覚め我に返る。ふとネクスト副大臣を見ると、座ったまま耳から血を流して、本当に死んでいた。

(作成:2013/07/28)

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