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クロース家の年越し

「うーうちも寒いけどここもうすら寒いな。暖房、いれてんの」
部屋に入るなり男は毒づいた。
「あれ兄さんずいぶん遅かったじゃない。25日で仕事納めでしょうに」
「話さなかったっけ。うちも法人化して、その処理でてんてこまいだったのさ。税収が足りないからってサンタも納税するなんて父さんが聞いたら目を白黒させるだろうね」
「おおっぴらなグローバル事業てのは大変だね」
「お前んとこは個人事業主で気楽そうで羨ましいよ」
「まあのんびりはやってるけど、そろそろ売り方変えなきゃやっていけないかな。サンタの弟、サタン・クロースがプロデュースする悪魔のタピオカ!」
「もうブームは過ぎたろう」
「安く冷凍のタピオカをその筋から仕入れたけどめっちゃ在庫残ってる」
「駄目じゃん」
「まあいざとなればチョチョイとイクラでもキャビアでも変換はでき…おや来客のようだ」

「キャーなんなのよー」
サタン・クロースの家は招かれざる客を追い払うために、秘密の言葉を言わないとあれやこれやが飛び出してきて世にも恐ろしい目に遭わされるのだ。
「ハハハ、姉さん!久々すぎて合言葉忘れたのかい」
「仕方ないじゃない、もう7年ぶりよ。年末は出産前後になりがちだったから」
大柄な女の後ろから次々とちびっこが家になだれ込み、物色をはじめた。
「わーなにこれーがいこつー」
「この鏡いっぱいひとがうつってるー」
「あっコラそれに触ると色々召喚されるぞ。チビ助ども。いったい何人いるんだい、タサン姉さん」
「13人かな。まあにぎやかで楽しいわよ」

ひさびさに集まった3人とたくさんの子供たちは悪魔的に美味しいご飯とデザートをたらふく食べた。ひとしきり話題が尽きるころ、子供たちは眠りについた。テレビの音が代わりに大きく聞こえる。
「そういやアイツの特番、今日やるんじゃないか。重大発表!とか宣伝してたぞ」
長男らしく話題を振るサンタ。
「おもちゃの星を探しに行くんだ!って泣きながら家を出てって以来会ってないな。」
興味なさなそうな次男のサタン。
「商売道具に触るなってよく父さんに怒られてたね。まあ見てやりましょうよ。みんなの弟よ」
もはや全員の母親ポジション、長女タサンが番組を選ぶ。
「さあいよいよ今夜!重大発表が宇宙飛行士タンサ・クロースより行われます!新生物との交信か、未知の飛行ルートの開拓か、いったい何が明かされるのでしょうか…」
聞き慣れた声質のナレーションが流れた後、CMに入った。
「ずいぶんと商業的だな」
「宇宙を飛ぶにもスポンサーがいるって話よ。しかたないわ」
CM明けに顔を見せた四男はやや疲れた、でも誇らしげな姿でマイクの前に立った。
「お集まりいただきありがとうございます!結論から言いますと、私の念願、おもちゃを無限に有している星を発見しました!これでクリスマスを待つことなく、世界のあまねく子供たちにおもちゃを渡すことができます!」
クロース家の面々はぽかんとして画面を見つめる。タンサは続けた。
「現地の星の民とも通商条約を結びました。便宜上この星をサンタ星と今後呼ぶことにします」
テレビ的には世界に向けられたドヤ顔は、明らかに薄暗い悪魔的な食卓でほろ酔いの中年の長男に向けられていた。
「やってくれるね、タンサ。これでうちの商売あがったりだ。」
「でもあの顔見た?」
タサンがニヤニヤしながら2人を眺める。
「見たよ、しっかりと。あの仕返ししてやった!という満足な顔は」
「でもお兄ちゃんたちが遊んでるのに混ぜてほしいときみたいに口を尖がらせてたわよ。きっとまた一緒に過ごしたいのよ。こんな風にさ」
「…そうかもな。あいつ天邪鬼だし」
「一緒に商売すればもっと明るいところで年越せるかもしれないしな」
「おい来年俺行かないぞ、うちを悪くいうと」
「そろそろ年が変わるぞ、乾杯しよう」
ワクワクとモヤモヤの入り混じった、そんな子供の時のような気持ちでクロース家の3人はハッピーニューイヤーと言って杯を交わした。

次の年、タンサとおもちゃ事業を共に立ち上げて世界の子供たちを幸せにしたのも束の間、サンタ星の地球征服シナリオの片棒をかついでることが分かり、凶暴化したおもちゃたちを駆逐するトイバスターズとして4人は奮闘することになるだがそれはまた別のおはなし。

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