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棚の隅の忘れ去られたガムを噛む

部屋を整理していたらいつ買ったのか思い出せないタブレットのガムを発見した。別に賞味期限もなかろうと、しゅるしゅると銀紙をめくり口に放り込んだ。
かたい。どうしてこんなにも返事が遅いのよ、とヘソを曲げてしまった彼女の態度のように頑なな態度で、僕の歯の圧力に抵抗する。が、自分の体重と同じくらいともいわれるアゴの力に耐えられるわけもなくガムは砕けて、ツンとしたミントが鼻の奥へと侵入してきた。
しばらくガムを噛んでいなかったせいだろうか、長いドライブで必死に眠気をこらえてガムを手探りで口に入れたり、仕事中にガムなんて噛むんじゃないと若手の頃に小言を言われたりした記憶をミントが運んできた。
きっと皆の頭の片隅にも忘れ去られたかたいガムのような記憶があって、ふとした時に口にほうりこまれるのを待っているのかもしれないね。苦く悲しい味のガムはカンベンしてほしいけど、たまにはそういったものを噛みしめるのも、今の自分を理解する助けになるかもよ。


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