落下

あっと気づいたときにはもう落ちていた。いつどうやって高い場所までのぼってきたのやら、全く覚えがない。ともかく自分の体は空中にあり、誰も逃げられない地球の引力にしたがってぐんぐんと落下している。もし地上から自分を見たら、流れ星のように細長く糸をひいたように見えるのだろうか。それともただのゴマか豆のように一粒に見えるのだろうか。この世に生まれてから短かった気もするが、七年間土の中で眠り一週間かそこらでまた土に還るセミよりはマシかとも思う。364日間寝続けて、大晦日の一日で初めて出かけてナンパしてセックスして除夜の鐘を聞きながら死ぬようなものだろう?
そんなことを考えるうちに地面がぐいぐい近づいてくる。堅いアスファルトだ。堅くないアスファルトはたぶん世の中にはない。さらば我が旅よ。地面に打ちつけられて粉々になったら、他の雨粒とともに排水溝を通り川へ海へ流れ、よく分からないまま雲の一部になるんだろう。また雨の日に会おう。その日までお元気で。

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