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BtoC自社ブランド商品を発売するまで

東京の町田市でデザイン事務所と小さいメーカーを生業にしている角南です。(有)TSDESIGN代表。アウトドアブランドMONORAL代表。
サラリーマンデザイナーを5年、フリーランス3年くらい、会社にして15年ほど工業製品のデザインの仕事しています。仕事を通じた見聞、体験を書いていこうと思います。

私自身MONORALというアウトドアギアブランドを立ち上げて営業して既に10年以上経ちますが、最初は全て手探りで一つずつ進めて行きました。
www.monoral.jp
そのモデルケースがあるからか、製造工場や商社といった自社商品を持たない業態の会社から製品そのものだけでなく、BtoCメーカー業の立ち上げ自体を依頼されるようになりました。

受託製造業または流通業として日常的に工業製品に触れている会社でも、自社商品を開発し実際に一般ユーザーに届けるまでに必要なワーク、及びかかる費用感はまったく頭にないことが殆どです。丁度その内容と概算費用をリストアップしてお客さんにメールしたので、その内容を一般化して記録してみました。TSDESIGNでの経験値からの概算、製品はスポーツサングラスフレームとしています。

なぜこんな内容を記録するかというと、自分がまだ経験値が少なかった頃こういう情報がとても欲しかったからです。また将来のクライアントに説明するのに再利用するつもりです。

スポーツサングラスフレーム(例)を開発し、販売するまでのステップと費用感

A.デザイン開発費

この段階はデザイン会社によって様々だと思います。下記はTSDESIGNでよくやっているやり方です。金額算定は先の記事「デザイン料の決め方、決められ方」に書いてあります。基本はデザイナーがどれくらいの時間を使うか?です。

1.デザイン展開 (30万〜)
色々なアイデアを拡げ、CGなどコストのかからない方法で検討する段階。工数5日〜+打合せ1日。
2.詳細デザイン (50万
上記で選択したデザイン案を、製造要件も含め詳細にデザインしていく段階。ラフなモックアップも製作します。工数10日〜。
3.試作量産)設計 (50万
詳細デザインにて検討した結果、実際の量産工場とすり合わせしながら設計を完成させる段階。試作設計までのデザイナー側でやり、量産設計は工場というパターンが多いです。工数10日〜。

B.試作費

デザインしたらその有用性を確認するために、立体化して確認するのが普通です。近年は3Dプリンターが普及したので、30cm位までのサイズのものであれば安価に試作を繰り返せるようになりました。
1. 3Dプリント(材料費程度)
形状確認レベルの出力はデザイン会社所有の設備にて可能なケースが増えました。
2.切削試作(20〜50万/1回)
実強度を持った試作。完成するまで何度か行うのが通常です。これは工場へ外注します。

C.量産立ち上げ(日本製と仮定)

1.射出成形金型(200〜500万)
単純な構造の2型を想定。金型は一番お金のかかる部分です。構造や製品サイズによって様々ですが、取りあえず数百万かかるイメージです。
2.量産製造 (100万〜/初回生産 単価@1,000円x1,000個と仮定)
一回の生産にあたり工場が要求する最低数量をMOQ(Minimum of quantity )といいます。なぜかどんな製品でも5000個からと言われることが多いですが、初回は交渉して小さくできることが多いです。
3.組立工賃 (?)
基本は工員の時給と組立にどれくらいの時間がかかるかによりますが、複雑な製品の場合、工員が組立方法を習熟するための時間と組立方法を文書化するコストがかなりかかります。
4.パッケージ製造 (30万〜)
段ボール箱や、シールなどの梱包材の製造費。説明書も必要になります。デザイン費含まず。

D.販売マーケティング費

1.WEBサイト制作(30万〜)
2.クラウドファンディング出稿用動画制作(50万〜)
自社で先行投資して商品開発をしたことが無い場合、クラウドファンディングに頼ろうと考えるケースは増えていますが、実行するための制作費用はかかりますし、実際に成功するのはなかなか難しい印象です。
3.宣伝及び営業 (?)
展示会出展や営業人件費など。新しい商品はそれを周知する努力が、作る以上にかかります。

E.知財出願費

自分達の開発結果を守りたい場合に必要。下記費用は日本国内のみ。もしクラウドファンディングしたい場合は、先行して出願する必要あり。
1.意匠出願(10万〜)
2.特許出願(30万〜/特許性がある場合)
3.商標出願 (10万〜/商品カテゴリー数による
単純に製品を売りたいだけの場合と、自社でブランド名を作り、自社商品を独占的に市場に定着させようとする場合で、全く異なる道を歩むことになります。後者の場合知財管理の費用がかかり、特にブランドを立てたい場合は商標登録が最重要になります。
出願は自力でもできますが、特に特許は専門家であるプロの弁理士に頼んだ方が無難です。なお出願費用だけでなく登録になったら登録費用もかかります。

D.保険費

1.PL保険(年間5万〜/売上げによる)
一般消費者が事故を起こして訴訟になるリスクが高い場合、それに備える保険に入ります。

E.物流費

最初は自社でやっていても、販売数が増えてくると商品の置き場が必要になり、受注と出荷作業も物流倉庫に外注する方が効率的です。費用は様々。

まとめ

「こんなものがあったら売れんじゃないか?」と思いついたり、市場で評価されている商品やブランドに憧れ自分もやってみたいと思う人は沢山いると思います。が、しかしメーカー業は単純に物を作ることに比較して、メチャクチャやることが沢山あって、しかも売れるかどうかは保証されていません。さらに生産して在庫すると売れるまで税金までかかります。

単純に金儲けだけがモチベーションだと、途中で嫌になって止めちゃうケースもよくあります。「売れるかどうか分からない物に投資できない」とよく言われました。しかし「売れるかどうか分からない物を人に先駆けて量産して在庫する」のがメーカーの役割なんですよね。






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