#17「春の海」

白い紙へ淡い色を重ねるように、
春の海はたゆたう。

さざ波の音がきこえる。
そよ風の音がきこえる。

陽光は柔らかな覆いをかけて、
仄白い水平線は蜃気楼になる。

足跡はまだどこにもない。
穏やかな音に、
沈黙が呼応する。

囁きが満ちた曖昧な境界。
誰かの忘れた帽子がでたらめに踊る。
そのとき、が訪れるまで座礁し続ける一隻の船。

散乱した海藻に埋もれた、褪せた外国語の漂着物。
小さな絶海が、風に撫でられ微かに揺らぐ。
長い航路の果てに、透明な言葉が堆積したメッセージボトル。
始まりを覚えてる?旅の話を聞かせてよ。

沈黙が呼応する。
穏やかな音が重なる。
足跡は波にさらわれていく。

やがて、まどろみの先で新たな色と音が芽吹いていく。
夜明けに海が見るひとときの夢のように。


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今回は元々横書きであり、ニュアンスを損なわないためプレーンテキストで表記しました。

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