失われた時を求めて
調子に乗ってまた『食べログ』の過去の長文レビューをこちらに転記することにした。というか、長文レビュー転記第1弾の中に登場するパティスリーのレビューが、同じように長文だったのに気付いたから。相変わらず食レポというよりも偏屈オヤジのくだらない日記だけど。補足すれば、時系列的にはこのレビューが先になる。
パティスリー タツヒト サトイ (京都:元田中)
2017/11/25 訪問
個人的評価:3.5 / 5.0
失われた時を求めて (4300字)
思い立ったが吉日。
そうだ
京都、
行こう。
と言っても観光に行くつもりはなく、あくまで"花より団子"、人混みかきわけてまで腹の足しにもならない赤い葉っぱを見るぐらいなら、まったりと美味しいものを食べたいですわ。
1.メルマガ
実は先日、こんなメルマガが送られて来ました。
◇◇◇
++++++++++++++++++++
幻冬舎plusメルマガ 2017年11月24日号
++++++++++++++++++++
suna8さま
こんばんは。幻冬舎plusの柳生です。
先日電車に乗っているとき、近くに立っていた女性の着ていたセーターの匂いから、昔の恋人のことを思い出してしまう、ということがありました。おそらく同じ柔軟剤か香水かを使っていたのだと思いますが、遠い過去の記憶が一瞬にして鮮明に呼び起こされたのが不思議で、少し切なかったです。
記憶が香りをきっかけとして蘇ることを「プルースト効果」というらしいのですが、作家・プルーストの代表作『失われた時を求めて』が紅茶に浸したマドレーヌの香りから始まる記憶の物語だということから名付けられたそう。
マドレーヌは香りというより味じゃないかという気もするのですが、鼻をつまんで食事をすると味がわからなくなる、という実験もあるそうで、「味」の半分は「香り」でできていると言えるかもしれません。
折しも今月の電子オリジナルレーベル「幻冬舎plus+」の新刊2作品は、ラズウェル細木さんと矢吹透さんによる「食」にまつわるエッセイ。どちらも、美味しい香りが行間から匂い立ってくる作品です。
suna8さまの食欲だけでなく、記憶に訴えかける料理も登場するかも(?)な、この2冊。詳細・立ち読みは「新着電子書籍」の項目からどうぞ。
(後略)
◇◇◇
幻冬社が運営している電子書籍のアカウント宛に月一程度のペースで送られて来るのです。世の中の大抵のメルマガは、つまらない内容なのでスルーするか配信を停止しますが、唯一このメルマガだけは受信を継続し、大抵はちゃんと読んでいるのです。たまに返信したくなるほどヒットするテーマもあるのですが、残念ながら返信はできないのがメルマガです。
そして、今回は食と文学に関係したテーマだったので、そのどちらにも興味がある私はいつもより反応したのです。そして、"プルースト効果"を確かめるために、この店に来たのです。
なぜ京都を選んだのかと言えば、例の『電車で巡る 沿線 カレー 味くらべ』の、残りの3店舗のうちの1つが京都だったからで、じゃあついでに京都でマドレーヌを食べよう、と思ったのです。京都はスイーツのメッカでもありますから、一石二鳥なのです。
食べログの百名店に入るような超メジャー店はどうせ混むからと、ちょっとだけマイナーっぽい"知る人ぞ知る"感じの店を食べログで探しました。そして、なんとなく(根拠はないが)、この店がいい感じだったわけで、ケーキ(ガトー)もインスタ映えしそうだし、マドレーヌもあるし、そして何よりイートインが出来ると言うことで、白羽の矢を立てたのです。
2.ジュンク堂
メルマガの中でメインに扱っている20世紀初頭のフランスの作家、プルーストの『失われた時を求めて』は、タイトルだけは知っていましたが、どんな内容かも作家自体も詳しく知らなかったのです。こういう機会を逃したくないと思うのが、自称"好奇心の塊"な私なのです。ただ、翻訳はされてはいるものの、全10冊ほどになる長編を読む自信も時間もありません。
そこで、ダイジェスト版として「まんがで読破」シリーズを入手することにしたのです。漫画とは言えそれなりの厚さがありますが、一冊にまとめられているので、とりあえずサクッと内容を知ることはできると思いました。ただ今回、"思い立ったが吉日"なので、今日の今日、入手したいわけで、翌日届くだろうネット通販でも間に合わないわけで、じゃあリアルに本屋で手に入れようと思ったのです。
そして、当日、まずは京都市内の大型書店に行って漫画をゲット、その後、それを読みながらこの店に向かうことにしました。かなりの付け焼き刃、一夜漬けより浅漬けです。
3.京阪電車
この店や大型書店Jのロケーションを鑑みて、今回は京阪電車で京都に行くことにしました。大阪の住処から京都方面に行くルートは、鉄道を前提にした場合は3つあります。
◇JRルート(JR京都駅界隈、京都市街地)
◇阪急ルート(京都市の西部、嵐山など)
◇京阪ルート(京都市の鴨川より東、及び叡電方面)
実際には、いずれのルートでも市内に行ってしまえば、地下鉄やバス、嵐電などが走っていますので、大差はないのですが、私鉄には一日乗車券が用意されており、目的地が複数ある場合は、そのようなチケットを活用する方が便利でお得なことが多いのです。今回は、京阪電車の『みやこ漫遊チケット』という一日乗車券を使いました。これは、京阪電車全線、京都地下鉄、市バス、京都バス(周辺部を除く)が丸一日乗り降り自由なのです。これで1600円なら、使い方によってはお得になるわけですが、これ一枚で用を足せるという点も、利便性という意味で価値があると思います。こういう一日乗車券は他にも色々あるので、行き先などによって使い分けるといいと思います。
朝、まずは大阪市内の住処から京阪電車の中之島駅まで歩き、京阪電車で祇園四条駅まで行きます。この駅は、阪急電車の京都線の終点である河原町駅とほぼ同じ場所にあります。そして、まずはJ書店を目指して歩き始めました。相変わらず、すごい人混みです。そして、無事に目的の『まんがで読破 失われた時を求めて』をゲットした私は、今度は市バスに乗ってこの店を目指すことにしたのです。これが実は大きな間違いで、結局、うまい具合にバスには乗れず(乗るべきバス停が見つからず)、結局、京阪電車で最寄駅の出町柳まで移動し、あとは徒歩で店まで行くことにしたのです。
"京都のバスを使いこなせたら、京都観光のプロだ"
……と改めて思ったのです。そして、実際にそれが出来る人を知っているだけに、すごいなぁと感心するのです。
4.京都大学
京阪の出町柳駅からこの店に向かっていると、やたら大学生っぽい若者が同じ方向に歩いているのです。ん? この先に学校があったっけ? と考えているうちに、答えが目の前に現れてきました。そうなのです。京都大学があるのです。結局、この店は京大の近くで、しかも、なんと偶然にも当日は大学祭の真っ最中だったのです。
"第59回 京都大学11月祭"
2017/11/23から26日までの4日間開催されているとのことで、なるほど、これじゃあ学生が目立つのも当たり前だと思いました。まあ、学祭が開かれてなくても、学生はこの界隈にいつもたむろっていそうですけど。
(この店に行ったあと寄ってみるか)
そう思って横目で学祭の看板を見ながら、この店まで歩きました。
5.マドレーヌ
食べ情報では、イートインスペースがあるとのことで、実際、外からでもそれが確認できましたが、窓際の席だけではなく、他にもテーブル席が設えられており、座れる人数は10人程度と思われました。先客はいませんでした。
着ていたジャンパーを脱ぎ(室内に入ると暑く感じるほどだった)、カバンと共にイートインスペースの椅子の上に置いてから、何があるかなと売り場の方に行きました。「お、マドレーヌがちゃんとあるぞ」と思いました。事前にレビューなどでチェックはしていましたが、店舗情報のメニューには明示されてなかったので、若干心配だったのです。そして、小説のようにマドレーヌと紅茶だけでは寂しいので、ケーキ(ガトー)も買うことにしました。
女性の店員に「おすすめは?」と聞いたところ『ロールケーキやその隣のベイクドチーズタルトですかねぇ』と答えてくれました。ケーキ用のショーケースの右端から2つです。ってことは「じゃあ、オススメ順に並んでいるってことですかね?」とツッコんでみたのですが、期待に反して反応は薄かったのです。実はその横、3番目のケーキが良いなぁと思っていたので、『実はそうなんです』って反応してくれると「じゃあ、この流れで3番目のやつ、ちょうだいな」って言えたんですけどねぇ。でもまあ、しょうがないです。ここは京都…、大阪ではありません。
■マドレーヌ
■ジヴァラ (JIVARA) ---ガトー
■アールグレイ
腕時計の針はほぼ正午を指しています。この店は南側を幅広な道路に面しており、広くとったガラス面からは、初冬の陽の光がさんさんと射し込んで来ます。遮るもののないイートインスペースは、(ちょっと大げさかも知れませんが)まるで温室のように暖かいのです。今回選んだガトー(ケーキ)は、繊細なチョコ細工がパウンドケーキの上に乗っているので、室内の温かさや直射日光で溶けるような気がして、マドレーヌより先に食べることにしました。
久々に食べる甘いケーキは、もちろん美味しく頂きました。私はチョコが好きなので、パウンドの上に乗っている、チューリップの花弁をかたどったチョコで出来た3つのパーツが、気になってこれを選んだわけですが、栗風味のパウンドと共に堪能しました。
さて、次に今回の目的である『マドレーヌを紅茶に浸して食べる』という食べ方を実行しました。とは言っても、それがすごく美味しいというわけでもなく、想定内の風味だったわけですが、とにかく昼のひと時(本当は午後のひと時にしたかったが)をまったりと、上品な風味のマドレーヌと共に、アールグレイの風味を楽しめました。そう言えば、こういう機会でもない限り、紅茶を飲むことなんてないよなぁ、と思いながら。
結局、"プルースト効果"は実体験できなかったのですが、美味しい紅茶をまったりと楽しんだ私は、退店する際に、再度女性の店員に声を掛けました。パティシエである店主は、ガラスの向こうの厨房で忙しそうに仕込みをしています。「私が大阪からこの店に来たのには目的があって、そのことがこの本に書いてあるんですよ」と、今日本屋で買ったマンガを見せたのです。「実際にはフランスの小説なんだけどね。その中で、マドレーヌを紅茶に浸して食べるシーンが冒頭に出てくるんですよ……」などと話し始めたのですが、女性店員の反応はイマイチで、私はその雰囲気を察して、途中で話すのをやめました。どうやら、この店員は調理の補助もしているらしく、厨房内が気になっているようでした。
ということで、ドアを開け涼しい冬の京都の空気を感じながら、京大のキャンパスを目指すのでした。
ごちそうさまでした。
(京大11月祭とタイカレーラーメン店 につづく)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?