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冬季オリンピックと欧米スポーツメディア

1988年以降をアメリカで12年過ごした。アメリカのスポーツ実況は、非常に興味深くて、選手に個人的な焦点を当てて、特集していた。12年間で何度も見たスポーツ番組だが、やはり五輪番組が一番楽しい。アメリカに注目するのは当該国だから当然だが、当時からライバル国の有名選手にも取材が開始した。この番組が始まったのは、伊藤みどりからである。お蔭で里帰りしなくても当時の伊藤みどりの騒ぎは全て知っていた。

特にフィギュアスケーティングの90年代の五輪での闘いには、日米のプロが国を挙げて騒いでいたが、当時弾頭で五輪のスケート場にダイナミックなデビューをしたのがジャンプの天才、伊藤みどりだ。

テレビの解説者達がほぼ全員、日本の伊藤みどりのカワイイ垢抜けしない純粋な笑顔やにこやかなかわいい仕草にやられてしまって、このころから日本の選手もファーストネームで呼ばれるようになったものだ。欧米の緑フィーバーは結構なものだった。皆、伊藤みどりをみどり、みどり、と親せきの子の様に呼んだものだ。

アメリカのCBSからNBC、ABCまで、テレビ局というテレビ局が伊藤みどりを特集した。彼女の高いジャンプ力、恥ずかしがりなのに、ダイナミックなジャンプ力、嫌みのない性格と純粋なスポーツマンシップにそれまで日本をあまり知らなかったアメリカ中が沸いたものだ。

何故か、伊藤みどりは世界のファンが多い。いまだにYouTube配信で当時の名解説者のスコットハミルトン氏のみどりをほめる声が聞こえる程。
みどり伝説なる番組が見れる程、欧米の伊藤みどりファンは多い。

伊藤みどりは英語が分からないなりに動作やかわいい仕草で解説者やアメリカのスポーツジャーナリスト達の取材にもこたえ、伊藤も当時大変だったのではないかと思う。140㎝の伊藤のダイナミックな約3メートル以上の空中を舞う様な高いジャンプの前に、アメリカの大衆はわぉ、と声を上げて感動していた。いまだにみどりという名が何かというと取りざたされている程だ。いわば、伊藤みどりはアメリカの解説者達に見つけられたのだ。

「みどり」のかわいい笑顔と、当時の世界一ともいえる伝説的なジャンプ力はいまだにその記録を破られていない。

当時の解説者で世界チャンピオン、4回連続金メダルを取ったスコットハミルトン氏をして、
「みどりのような高いジャンプ力を持つ、運動神経の高い選手はほかにいない。彼女のあのジャンプ力と正確性のある運動神経を超える者はあと50年くらいは出ないだろう」(1992年)
と言わしめた。

彼は今ほど、世界でコーチがスケーターにくっついて指導する文化がなかった当時のアメリカスポーツ界で、本当は伊藤みどりをさらに教えて羽ばたかせたかったに違いない。だが、当時の世界のスポーツ界では、やはり自国の教え子を好んだのだ。

みどりちゃんの高い、高いジャンプに解説者達は口を揃えてこう言っている。

「Look at the height.  Look at how high Midori jumps.  Wow.  Hooooooo (あの高さを観ろ。どのくらい高くみどりがとんだかみてみろ。フェェェェ💦」
と悲鳴を上げていたものだ。

羽生結弦同様、ほかの選手とぶつかったり、けがをして、苦労しながら練習するみどりをアメリカの観衆は好意的な目で見ていた。カメラマンから記者、雑誌や新聞の記者まで、皆、みどりの仲間だった。伊藤みどりの気遣いや、周りの方々へのお礼の仕方が、アメリカ人のメディア連中には非常に珍しかった。日本人応援団がワールドカップの試合後にサッカー場で自分たちの席の下に出来たごみを集めてから帰る姿に感動した世界のメディア連と同じことだ。

日本の奥ゆかしさや、特別な美人じゃないけど、サービス精神の豊かなかわいさ、努力や監督の指示への忠誠心、やる事なす事への真面目さや周囲の外国人への親切さは、社会の泥にまみれで世界になれ切った当時のメディア連には新鮮だったのだろう。一発でみどり班が世界中で設定され、彼女の後をついていっては情報をつなげてくれた。在米邦人にとっては凄く嬉しかったものだ。

試合ごとにみどりのスマイルを観たい、とアメリカ人が日本国旗を以ては応援に言ったほど、みどりは廻りの国の解説者やメディアさん達から、ほめられ、愛された。可愛いスマイルだけでなく、周りの人への気遣いが尋常ではないことを知って、さらにそれを取材のレポートにした。アメリカ大衆が戦後、知らなかった日本という国の文化に伊藤みどりを通じて初めて触れたのだ、と言っていいだろう。

彼女は、私がアメリカで苦労していたころ、初めて異文化にいる自分に慰めを与えてくれた人だ。アメリカからどんなに応援したか知らない程。
いやぁ、いい思い出だ。スコットハミルトン氏のみどりちゃんを応援する声や、アメリカのジャーナリストのやさしさや、いろんなことを思い出す。


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