チャイハネの香り

昔、都内に住むゲーム友達に「地方民って本当にデートでイオンに行くんだ」と言われたことがある。その言葉がずっと心に引っかかっている。確かにイオンでデートすることはあるが、繁華街や商店街でウィンドウショッピングをしたり、アウトレットに行ったりすることもある。それなのに「地方民」とひとくくりにされたことに少し不満を感じた。その一方で「じゃあ都民はどこでデートするのか」という疑問も浮かんだ。確かにドラマや映画では、都民のデートシーンにイオンは出てこない。彼らは街中や繁華街でデートしているように見える。
しかし、その時は「イオンにはイオンの良さがある」と思い、特に張り合うこともなくその話題は流した。

なぜこんな話を思い出したかというと、先ほどイオンでしか嗅いだことのない香りに出会ったからだ。

自分の持つ語彙でその香りを表現すると、「チャイハネの香り」となるだろう。その香りは、隣に座ったお客さんから漂ってきたものだった。エスニックなファッションに身を包んだその人が座った瞬間、チャイハネ特有の香りがふわっと漂ってきたのだ。

チャイハネをご存じだろうか。イオンによく入っているアジア系のファッションのお店だ。チャイハネと類似の店舗もあるが、どれも似たような雰囲気で、独特の香りが漂っている。その香りはお香か何かかもしれないが、正体はよくわからない。ただ、どの店舗でも同じような香りがするのだ。

自分はイオンにあるチャイハネしかアジア系の店に入ったことがない。もともとお店での買い物が苦手で、店員に話しかけられるのがどうにも慣れない。話しかけられて勧められると、断りきれずに欲しくないものまで買ってしまうのではないかと心配だからだ。そのため、退路を確保できるオープンなお店、つまりイオンの店舗にしか行かない。ウィンドウショッピングも苦手で、扉のある店舗にはあまり入らない。そんな理由から、チャイハネ以外の店を知らないのだ。

この「チャイハネの香り」を知らない人にどう伝えればいいのだろうか。そして、この香りの正体は何なのだろうか。
「チャイハネの香り」を言葉で伝えるのは難しい。それは単なる店の香りではなく、イオンで過ごした時間や、アジアンテイストの空気感、そこで感じた独特の世界観と深く結びついているからだ。この香りが持つ魅力は、単なる匂いではなく、自分の記憶や感情を呼び起こす何か特別なものを含んでいる。だからこそ、あの香りに出会うたびに、心の奥底で「チャイハネの香り」が蘇るのだろう。

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