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NewJeans “Attention” “Hype Boy” の爽やかさとは

今年のkpopはヒット曲が多くて上半期だけでもお腹いっぱいだったのですが、下半期も豊作の予感です。そんな中、Ador からデビューした NewJeans のタイトル曲 “Attention” “Hype Boy” がとても好みの曲だったので、曲の作りを分析してみました。ここではあくまで歌詞を含まない音楽的内容のみに言及しています。良ければ最後までお付き合いください。

“Attention”

最初の印象では、トラックの中の音素材を適材適所で使うことによってよりフレッシュさが出ていて、シンプルな流れの中でも個性を出すところは出していてまとまりが良いと感じました。
まずウィンドチャイムの使い方。イントロでキラキラさせて始めるのもずるいですが、サビ前でもサビ中でも使うのがずるいです。サビで major(長調) になる時の女の子の透き通った裏声を5声くらい重ねたのと一緒にチャイムをキラキラさせて爽やかさを増幅させているのが、ベタではあるけれどやっぱりみんな好きだよなあと思いましたし、私もその1人でした。
エレピのほわほわ音と乾いたキックとクラップの重なりも良いバランスだし、トライアングルやクリック音も良いアクセントだし、イントロのケラケラした人の声のサンプリングの重なりが続いた後に前述のキラキラサビが来ては、どうやっても心がときめいてしまいます。個人的にケラケラした音とかポコポコしている乾いた音が好きなんですよね(どんなのだよ)。

ドリムの “We Go Up” で一番好きなところは実はパーカッションの使い方なのですが、アゴゴのポコポコ音とか、スネアのピッチを徐々に変えていくところとか、ハイハットのチキチキ音とか…他にも泡の音や虎の鳴き声とか…遊び心満載だけど散らかっていないところが “Attention” と通じるものがある気がします。どちらも爽やか代表曲と言ったところですね。hiphop や R&B が絡んでポコポコさせると爽やかさに直結するのかな。

他に “Attention” の爽やかポイントというか、多分みんなが好きな曲の作り方をしているなと思ったので、箇条書きであげていきます。主語が大きくてすみません。

・minor と major の行き来が激しい
・サビのコードが B♭m9/G♭ → A♭7 → B♭9
 進行は普通だが、解決が毎回 minor から major に行くので多幸感がすごい
・メロディーで音階7音全てを使わない

一つ目の minor(短調) と major(長調) の行き来は、みんな好きです。私も好きです。なぜなら?多幸感がすごいからです。
“Love Song” と同じ手法(ピカルディー終止)であります。

これはバッハ大先生の時代には既にあった手法なので、人間の進化の過程で幸福を感じるポイントにインプットされていると思うんですよね。私は地味にその説を1人で信じようと思います。

上の記事はとても長いので超要約すると、

曲自体は minor の曲なので当たり前に minor で曲を解決させるのが自然だが、それだと曲が終わった感じがしない・不完全燃焼的な感覚があるので、曲の終わりを major で解決することで聴き手を良い意味で裏切り、より調和し解決感を増して終結させ幸福感・満足感を与える

ような感じです。断定的に言ってますが、この効果は個人差があります。全ては個々人それぞれの感覚で感じたものを信じた方がよろしいかと思います。()

二つ目の、サビのコードが B♭m9/G♭ → A♭7 → B♭9 については、この進行自体(Ⅵ→Ⅶ→Ⅰ)はごくごく普通の進行方法だと思います。Delta Heavy / Ghost で使われているのと同じです。

“Attention” のコードは、A♭7 のドミナント部分で導音を用いないことで終止感が弱くなりますが、同じコードをループして使っているので耳馴染みの良い進行になっていると思います。少し変則的な進行になるところはありますが、ほぼこの進行でサビは進んでいます。
ベース音が G♭ → A♭ → B♭ の上昇形で進み、9thまで重ねた和音をその上に重ねています。ちなみにイントロもこの進行ですが、9thまで重ねた和音で始まるとやはり“おしゃれさ”というのを感じてしまいます。単純な三和音(5th)よりも音が多い分、調の判定が曖昧になりどこか漂っている感覚がおしゃれに感じます。その上で major に解決していくので、多幸感の塊のような音作りです。

三つ目の、メロディーで音階7音全て使わない、この手法もよくkpopであります。”Attention” では6番目の音(ソ)が使われていないです。この手法は厳密には音階の何番目の音が無いかは曲によるし、2音使わない曲もあるし、ここぞ!という時にそれまで使わなかった音を使う場合もあります。洋楽でもjpopでも良くある手法で、これをするとキャッチーさや異国の雰囲気、哀愁さが出ます。曲がどんな雰囲気になるかは、どの音を抜くかまたは調性によっても千差万別です。kpopだと (G)I-DLE がよく使っている印象があります。

“TOMBOY” の2番まではメロディーで音階の2・6番目の音を使っていませんでしたが、後半の La La La ~ 以降から6番目の音を使っています。シュファちゃんのラララパートは印象的ですよね。アイドゥルの曲の東洋風の雰囲気はこの手法も一つの要因かと思います。この手法が意図的でも意図的で無くても、ソヨン大先生は天才ということがわかります。
アイドゥルで他にこの手法を使っている曲は、“LION” “화” などがあります。
ちなみに、アイドゥル繋がりで “LATATA” は先程の二つ目の(Ⅵ→Ⅶ→Ⅰ)の進行を使っています。

“Hype Boy”

“Attention” と “Hype Boy” どちらが好みかというと最初は “Hype Boy” でしたが、最近揺らいでいます。いや、どっちもいいからこれを書いているのではあるんですが。

“Hype Boy” は軽さが印象的でした。ムーンバートンというジャンルは、重厚だったりエッジが効いたイメージが前まであったのですが、 “Hype Boy” ではトラックの音素材が比較的軽いものを使っているので、その音素材の軽さがムーンバートン特有のシンコペーションを"生"かして軽くしたような感じがしました。エレクトロポップの無機質さを活かした軽やかなR&Bも感じられて、良質な音楽そのものです。飽きが来なくて耳馴染みが良く、何回も聴けるイージーリスニング的な感覚で聴けるのは、この軽さが必要だったのだろうと思います。

“Hype Boy” のポイントも “Attention” とほとんどおなじなのですが、こちらも箇条書きであげます。

・コード進行が Am9 → Bm7 → Em7(Fdim7) で、こちらもごく普通の進行を繰り返すが、たまにdimに解決することで飽きない
・メロディーで音階7音全て使わない

Am9 → Bm7 → Em7 の進行(Ⅳ→Ⅴ→Ⅰ)も “Attention” と同様にとてもありきたりな進行で、基本中の基本すぎて面白みには欠けるので逆に使いずらかったりしますが、たまに出てくる Fdim7 が良い仕事をしてくれるおかげで何回もループしても飽きてこないようになっています。
dim は減音程と言って和音単体で聴くと違和感和音認定されがちですが、前後の流れをスムーズにしてくれる役割もあるので、流れの中で聴くとそんなに違和感は無いんですよね。でも頻繁に出すと今度はくどくなるので、8小節に1回の丁度良い頻度で出してきているということです。dim は素晴らしいお仕事をされています。

二つ目のポイントも “Attention” と同じで、ここでも6番目の音(ド)を使わずにメロディーを作っています。
音階の6番目の音というのは調を判別する上では、主音(音階の1番目の音)以外で音階の3番目の次に大事な音です。理由はそのまま、調を判定するのに必要な音だからなのですが、3番目の音は普段我々が耳にしているような音楽の調判定には必要不可欠な音なので、ほとんどの曲で使われます(無調音楽とかになるとその限りではない)。ただ6番目の音は、曲中に既に3番目の音があるとそれは調が確定しているに等しいので、別に無くても成立します。そして曲中で6番目の音だけ省くことで、7音全てある音楽よりも調性が曖昧になりアンニュイな雰囲気も出るため、pops ではよく使われるようになったというわけです。

彼女たちの今後は

近年の kpop の勢いがすごい中で、他アイドルと差別化するのだけでも苦労するだろうに、中高生がこのレベルの音楽をデビューで出して綺麗に消化(昇華)しているのは、本当にすごいことだと思います。もちろん映像やステージも素晴らしいですが、音楽が気持ちよすぎます。
NewJeans 公式インスタでもアルバムのレビューが五ヶ国語で投稿されています。本気でいいものを作り出そうとしている意気込みが伝わってきます。

NewJeans on Instagram: "🐰 [NewJeans 1st EP 『New Jeans』 Album Review] メンバー構成はもちろん、グループ名すら公開されていなかった時期から「ミン・ヒジン ガールズグループ」と呼ばれ、今年最も大きな期待を集めたADOR(All Doors One Room)の一番目の新人、NewJeansがデビューした。 1st EP 『New Jeans』は、NewJeansが追求する「良い音楽」について問いかける。 定型化されたK-POPの耳慣れた形式に従わず、ポップスに基づきながらも特定のスタイルだけに固執しなかった。どこでも気軽に楽しめる洗練されたイージーリスニング・ポップスを追求すると同時に、誇張のない自然なサウンド・エンジニアリングでNewJeansのメンバー本来の声を活かすプロデューシングを行った。 アルバムに収録された4曲は、全員10代で構成されたNewJeansのメンバーの純粋かつ自然な魅力と10代固有のエネルギーをそのまま表している。 一聴すると、NewJeansの同世代の恋について語っているようだが、各収録曲は多様な音楽的試みを土台にそれぞれ異なる物語を描いており、このような物語がまとまり自ずと10代のライフスタイルを包括する。また、個人のストーリーの向こうの「私たち」という物語を描く。型破りに3曲のタイトル曲を打ち出したのは、NewJeansから伝えたいメッセージをしっかり届けるための布石だ。 NewJeansは、何よりも率直さと自然さを追求する。 常に従来とは違う方法でK-POP市場のトレンドをリードし、革新的なアーティスト・ブランドを作ってきたミン・ヒジン総括プロデューサーは、「ポピュラー音楽は、日常に至近距離で寄り添う文化なので、まるで毎日着る服のようなものだ」と話す。 トレンドの真ん中で、あるいはトレンドとは無関係に、時代を問わず老若男女から愛されてきた「Jean」のように。 今の時代の新しいアイコンとして、毎日つい手に取ってしまう、いつ穿いても飽きない『New Jeans』になりますように! これこそNewJeansが目指す価値であり、New Genes – NewJeansの始まりだ。 #NewJeans_Attention #NewJeans #ADOR #Attention" NewJeans shared a post on Instagram: "🐰 [NewJeans 1st EP 『Ne www.instagram.com

デビューでこんなにいいものを出してしまうと、2作目以降の期待値爆上がりのプレッシャーにこちらが少し杞憂してしまいそうになりますが、そんな心配も無いんでしょうね。今後が楽しみです。


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