見出し画像

プログラミング原則から考える作句論

この記事は「ゆる言語学ラジオ非公式 Advent Calendar 2023」7日目の記事です。

文脈

自己紹介

和束です。趣味で俳句をやっているエンジニアです。

背景とか

ゆる言語学ラジオサポーターコミュニティDiscordサーバ(ゆサD)では日々いろいろな企画が行われていますが、その内のひとつにゆる歌会というものがあります。ゆる歌会というのはその名の通りゆるく短歌を詠みあう会で、なぜか短歌をよく知らない私がスピーカーとして感想を言ったりしています。ゆるいので俳句を投稿してもOKです。

ゆる歌会はありがたいことに16回ほど続いており、投稿いただいているみなさんのレベルもあがってきています。一方で最近短歌や俳句を始めた方や納得のいく作品を作れず悩んでいる方もいらっしゃるのではないかと思います。そこで、この機会に私なりの作句の方法論をお伝えすれば、多少は誰かの役に立つのではないかと考えたのがこの記事を書いた経緯です。みなさんの創作の一助になれば幸いです。

短歌と俳句を作る方法論は全く違うので役に立たないのではないかというツッコミについては今後の課題とさせていただきます。

プログラミング原則?

この記事のキーワードであるプログラミング原則についても触れていきます。

ソフトウェア開発というのは非常に困難な作業で、少し油断すると問題がみるみるうちに膨れ上がって手の付けようがなくなることがよくあります。そうした状況を避けるために頼りになるのが先人の知恵、そのエッセンスのつまったプログラミング原則であるというわけです。具体的にはソフトウェア開発に特化した格言みたいなもんです。

ゆるコンピュータ科学ラジオでも紹介されています

なぜ?

なぜ作句というプログラミングとは性質の異なる作業に、プログラミング原則なんてものを持ち出すのか?そう思われる方も多いでしょうが、それは作句の本質をとらえ損ねています。

実はプログラミングと作句はほとんど同じプロセスなのです。どういうことか、プログラミングと作句の違いをそれぞれのモデルを比較して説明します。

1. プログラミングのモデル

プログラミングの目的はソフトウェアを作ることです。しかし、ソフトウェアができたらそれでいいのかというとそうではありません。プログラミングの真の目的はユーザにソフトウェアを提供すること、そして提供したソフトウェアがユーザのもとで「しごと」を果たすことにあります。

2. 作句のモデル

これは作句についても同様です。俳句にも果たすべき「しごと」があり、作句の真の目的は読み手がその句を受けとった際に「しごと」を果たすことにあります。たとえば雪山の吹雪の様子を詠むことで自然の厳格さを感じさせたり雪に冬日の差す様子を詠むことで特有の高揚感を思い出させたり。雪の美しさをこまかく描写して正確なイメージを共有することも「しごと」のうちの1つです。

このようにまとまったパッケージに「しごと」を埋め込み、受け手のもとで「しごと」をさせるという構造は両者において共通しています。そのため、どうすればそれがうまくいくのかという工夫の仕方についても共通する部分がたくさんあるのです。

逆に作句のプログラミングと異なる点は利用できる空間が著しく限定されていること、メンテナンスという概念がないこと、「しごと」をする環境が受け手の内側であることが挙げられます。

みていく

ある程度納得いただけたと思うので、プログラミング原則を1つずつみていきましょう。

KISS (Keep It Simple, Stupid.)

訳:シンプルにせよ、愚か者

シンプルさは俳句にとって重要です。俳句のよくある失敗の原因は「詰め込みすぎ」だからです。これはわかりずらいかもしれない、と思ったら思い切って要素を削って、スペースをたっぷり使って最低限の要素で組み立てることがいい俳句を作る近道かもしれません。

DRY (Don't Repeat Yourself.)

訳:繰り返すな

同じことを場所に書くのは避けようねという原則です。なぜかというとメンテナンスが煩雑になるからなのですが、俳句では別の理由で重要な観点です。単純にスペースの無駄だからです。

俳句における無駄な繰り返しで多いのは単語の意味に含まれている内容をわざわざ説明してしまうというものです。たとえば「白い雪」や「雪の降る日」のような表現です。

車輪の再発明

すでに作られているものは作らないようにしよう、というプログラミングにおけるアンチパターンです。俳句においてもこのアンチパターンは有効です。では俳句における「すでに作られているもの」とはなんなのか。それは季語単語です。季語・単語には長い年月を通し培われた文脈が宿っています。季語・単語を探し、季語・単語を知り、信頼して身をあずけることでよりよい句を作ることができます。

おわりに

拙文にお付き合いいただきありがとうございました!まだまだ触れたい原則がありますが、時間切れです。ほかにもよさそうな原則があったら教えてください。

最後にゆる歌会は初心者でも参加しやすい会です。
興味はあるけれどもサポーターではないという方は、ぜひゆる言語学ラジオサポーターコミュニティにご参加ください。みなさんのデプロイをおまちしております!

参考文献

上田勲. プリンシプル オブ プログラミング: 3年目までに身につけたい一生役立つ101の原理原則. 秀和システム, 2016, 303p.

この記事よりもはるかに参考になる入門書

藤田湘子. 新版 20週俳句入門. 11版, KADOKAWA, 2019, 253p.

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?