宝塚歌劇団の騒動について、雑感

このところの宝塚にまつわる騒動について、自分のぐちゃぐちゃとした思考を整理するための文章です。
なお、私は劇団側・遺族側の会見および劇団がプレスリリースした調査報告書(概要版)と今後の対応について、すべて確認しています。
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 まずもって、今回の騒動における劇団および阪急HDの対応は不十分であり(主に広報の面で)、それにより騒動がより広がったことは否めないと考える。プレスリリースのタイミングや内容、会見の人選や発言など、いち企業としてお粗末な部分が少なくはなかったと感じる。初動次第では、もう少し異なる現在が待っていたのではないか?


 一連の騒動に関する公式発表をみるに、劇団に長時間労働と業務過多が蔓延していたということは事実であろう。(実際、入出の様子や種々の話からも、この一端は優に垣間見ることができた。それでも想像していたより遥かに程度が上であったが。)ただし劇団側がこれらの点については是正の意を示している以上、劇団スタッフでも生徒でもない第三者は、長時間労働と業務過多の問題については、ひとまず静観すべき状況にあるはずだ。*1「改革」の程度やスピードについては、内情を全て知っている訳ではない第三者が大口をたたける問題ではないと考える。少なくとも現時点では。
 となると、残る争点はパワハラである。

 SNSやマスコミでは様々な意見が散見されるが、「やられた側がパワハラだと思ったらパワハラ」論には異を唱える。パワーハラスメントとは「職場において行われる①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものであり、①~③までの要素をすべてみたすもの」であり、「客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、該当しない」と正式に定義されているのだ。*2 もちろん、故意でなくとも有過失が認められる場合はあるが、「本人がそう言っているからパワハラ」論は罷り通らない。
 これを鑑みると、遺族側のいう「15のパワーハラスメント行為」には、厚労省定義のパワハラに当てはまるものとそうでないものがあるのではないか?*3(例えばセンセーショナルに取り上げられている「ヘアアイロンによるやけど」の件など。*4)

 現在、パワハラについては遺族側と劇団側の主義主張が食い違っている状況である。(真っ向対立といっていいほど。)そして遺族側の会見をみると、たとえ劇団側が「一部」のパワハラを認めたとしても、遺族側はおそらく納得しないだろう。このままだと、何をどうしても水掛け論にしかならないと思うのは私だけだろうか。両者の見解に相違があり、その溝が簡単に埋まりそうとは思えない現状で、解決のためには司法を通すしかないと私は思ってしまった。*5 もちろん、両者とって痛みが伴い、完全に納得できる結果にはならずわだかまりが残り、一方が深手を負う可能性はもちろんあるが。




 「真実は人の数だけあるんですよ でも 事実は一つです」――田村由美作の漫画『ミステリと言う勿れ』の一節である。現在断言できる今回の宝塚にまつわる騒動における確かな「事実」は「人が一人亡くなった」ということだけである。この途轍もなく重い事実と向き合うには、理性的でなければならない。「真実」を免罪符に私刑が行われるようなことがあってはならないのだ。「私刑」により、更なる悲劇が起きないことを切に願う。




*1
(発端は何にせよ)音楽学校の不文律の廃止や年間公演スケジュールの見直しなど、体制変革の長い過渡期ではあったように思える。

*2
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/seisaku06/index.html
職場におけるハラスメントの防止のために(セクシュアルハラスメント/妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント/パワーハラスメント) | 職場におけるパワーハラスメントについて
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000611025.pdf
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=341AC0000000132
労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律 | 第九章 職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して事業主の講ずべき措置等 | 第三十条の二
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000584512.pdf
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000605661.pdf
事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年厚生労働省告示第5号)【令和2年6月1日適用】

*3
「15のパワーハラスメント行為」の内、過重労働にかかる内容については既に劇団も認めている。業務上の失敗について、必要以上に長時間または他者の面前での𠮟責を繰り返し行うことは、(実際に起きた事象であるのなら)厚労省定義も踏まえてパワハラとみなして妥当だろう。一方、「お声がけ」や「振り写し」の制度そのものは、パワハラと認定するに足る要件を備えていないように思う。(宝塚は舞台に乗る人数も多く、複雑な舞台機構もある以上、細心の注意を払わねば大事故が起きかねないと思われるので、これら制度は「業務上必要かつ相当な範囲で行われる」行為を逸脱していないのでは。)

*4
 「ヘアアイロンが額にあたって火傷した」こと、ヘアアイロンをあてられた本人(A氏)がこの事象を「わざとな気がする」と感じたことは事実であろう。遺族側が提示したLINE画面には「人のまけないとか」「いいつつ」(黒塗り)「失敗で」「結局私が巻いたし」とある。この文面を読む限り、ヘアアイロンをあてた本人(B氏)が他者にヘアアイロンを使うことに消極的である(自信がない)ように見える。これを踏まえると「ヘアアイロンが額にあたって火傷した」事実が故意によるものではない可能性は捨てきれないだろう。(事故後の対応や、この件が週刊誌に掲載された後の出来事は置いておくとして。)
 自分が苦手(嫌い)な相手からの行為や、自分を苦手(嫌い)に思ってる(と自分が考えている)相手からの行為は、たとえ事故でも、故意にされたものだと認識しやすいものである。A氏が「わざと」と感じたのは、このことも一因なのではないか。

*5
 「第三者が『裁判をしろ』と言うのは横暴だ」「裁判になれば生徒が証言台に立つことになるがいいのか」という意見もあり、一理あるとも思う。しかしながら、こうも両者の意見が食い違い、一部の団員が実名で報道され中傷され「私刑」が行われている以上、もはや最も穏便に解決する方法が裁判ではないか?生徒が証言台に立って初めて詳らかになることはないか?そもそも生徒が自らの口で話したいと思っている可能性はないのか?生徒は(下級生の一部を除き)成人した大人である。自分の行動・言動に十分責任をもつべきであり、それができる方々ではないのか。

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