令和5年3月場所6日目雑感

■ケガをしても掴みに行く1勝の重さ
貴景勝は立ち合い一発に賭けるしかなかったのかもしれない。しかし、御嶽海は重かった。御嶽海を起こすこともできず、御嶽海は貴景勝に応戦することができた。結果的に貴景勝はそれ以上に御嶽海を押しこむことができなかった。すべては膝の状態が悪いからといって過言ではないように思う。それにしても、番付が上に行こうとすればするほど、どこかで体を削られる。そこまで必死になって掴んだ1勝。それが番付を上げていく要素にもなる。そんな思いすらする。どの力士もどこかしら悪いところはあるだろう。だが、無理すれば1場所に1勝、2勝積み上げることができる。その無理をしてしまうのが番付上位の力士なのか。照ノ富士も休場続きだ。勝たねばならない地位がケガを生み出す。貴景勝がひざを痛めた正代戦も、その1勝を積み上げるために必死に正代を攻め立てたことがケガにつながったと言えるのか。だとしたら、本当にシビアだ。だが、それを恐れずに掴み獲った白星があるからこそ、更に積み上げられ番付を上に押し上げる成績にまでたどり着ける。

■霧馬山は大丈夫か
1つ上の番付を目指そうとしている1人が霧馬山だ。「関脇経験」だけで言えば、今場所の3関脇の中では一番経験値が低い新関脇だが、今場所2桁勝利を上げられれば、霧馬山は来場所が大関取りになるだろう。その星数で来場所に求められる数字は変わってくるだろうが。東西のいわゆる「正位」に座る若隆景も豊昇龍も、2桁勝ったところで、今場所の数字が「起点」になるだけだ。そういう意味では最も大関に近い関脇は霧馬山だ。だが、そんな霧馬山が錦木に抱えられた腕を痛めたようだ。腕を抱えられて苦しい体勢になりながらも、1勝を掴みに行く。そのために霧馬山はあまり見せないような外掛けを幾度も仕掛け抵抗した。当然、抱えられた腕にも力は入っていただろう。どの局面で腕を痛めたかははっきりとはしないが、必死になったからこそ負った傷なのかもしれない。

■最善で最低の戦術をとった豊昇龍
1勝を掴み獲るために必死になることもあるが、策で勝つ1勝もある。策がはまればいい方は悪いが「楽に勝てる」。豊昇龍が阿武咲に対して変化で白星を挙げた。阿武咲は前にばったりだ。変化に弱い阿武咲。たとえ一発で決まらなかったとしても、踏みとどまれた阿武咲の体勢を想像すれば、そこから豊昇龍が有利な形を作れるだろうことは想像に難くない。そうやって考えてみれば、豊昇龍は最善の戦術をとったと言えよう。だが、それは豊昇龍がこの先も強くなることを目指す上で。来場所以降も対戦するであろう、来場所以降の阿武咲戦を想定した際に。果たして長い目で見たときにプラスになる1勝だったのか。あとは単純に見ている側として、そんなもの見させられても面白いもんじゃない。豊昇龍に期待するのはそんな勝ち方ではないし、そうでもしないと阿武咲に勝てないのかと思わせてしまった残念さ。これからも、いつも変化で阿武咲に勝てる。変化し続けて阿武咲に勝ち続けられるというのであればともかく、興ざめだ。時折、豊昇龍が見せる立ち合いではあるとはいえ。ただ、阿武咲もまともに食らいすぎだ。2日目然り。豊昇龍の変化の巧さもあることは否定しないが、それでも、変化されて簡単に前に落ち続けるようだと。阿武咲相手にはとりあえず立ち合い変化しておけばいいやともなってしまうだろうし、そこで前に落とされることが続けば。見ている側も、阿武咲相手なら変化はありだよね、ともなってしまう。だからこそ、この一番を点で見るのであれば、豊昇龍からすれば「最善の戦術」でもあるのだが。

■変化だった琴恵光と千代翔馬
幕内序盤ではあるが、琴恵光と千代翔馬も変化だった。見ている側が求めているものが豊昇龍とは違うというのもあるが、両者ともなかなかお見事な変化だった。特に琴恵光。琴恵光の弱点の1つは軽量で相手の鋭い突き押しを受けてしまうと、あっさり土俵を割ってしまう負けがある。好調な場所でも、1回、2回、こういう相撲で負けてしまう。相手は四つでも取れるが基本は突き押しの金峰山。琴恵光にしてみれば金峰山の突き押しをまともに食らってしまえば、それこそ一直線に土俵を割る可能性だってある。それを避けるうえでも。立ち合いかわすと、金峰山の出足は止まり、突きで応戦したが、琴恵光が自分の形を作り、あっさりと金峰山をすくい投げた。一発で決めに行く変化ではなく、かわす立ち合い。考えた相撲と言えるだろうし、金峰山は幕内下位とは言え幕内の好調者の実力を感じる相撲にもなったのではなかろうか。それに対し、千代翔馬はいったんタメを置くような感じで、前に出てくる東龍を交わした。こちらは東龍の動きに対応できるように瞬間的に見たのか、立ち合い直後の考えていた戦術パターンの1つがこれだったのではないかという動きだった。結果的に一発で決まる形にはなったが、千代翔馬らしい取組だったと言えるだろう。

■大栄翔に大きな1勝
さて上位に話を戻すが、完全に相撲は負けたと言ってよさそうな大栄翔だが、琴ノ若の攻めを土俵を丸く使い土俵際で突き落とした。今場所冴えていた大栄翔の突き押しはまるで出せずに、この日の大栄翔に「攻撃力」なかった。対して琴ノ若の「攻撃力」は高かった。だが、勝負に勝ったのは大栄翔だ。大栄翔としては納得いかない内容だとは思う。だが、ここで白星を重ねて6戦全勝。こういう一番を拾えるのは大きい。ツキというよりも、大栄翔の実力がそうさせているとは思うが、好調者に巡ってくる「星を拾えた一番」だろう。終盤、この1勝が大きな意味を持つかもしれない。

■多くのファンが望むのは高安の優勝なのか
高安も6連勝。この地位だと圧倒するのが高安。こうもなれば、いい加減、高安に優勝してほしいという願望票も多くなってくるだろう。ここ数年、多くの力士が初優勝を遂げる中、その初優勝者の大部分より、いつ先に優勝に手が届いてもおかしくなかった高安。期待がかけられるのは当然かもしれない。だが、併せてプレッシャーという言葉も出てくる。プレッシャーに弱いはある種、高安の代名詞にもなりかけている。だからそっとしておいてやろうという気もないし、優勝するのであればそれに打ち勝って掴み獲ってほしい。だが、まだ幕内中位レベルの相手と戦っているだけだ。関脇陣の調子が出ていないが、4小結は期待値よりは高い活躍をどの力士もしていると言って差し支えない。そういう力士たちとの対戦もあるだろうし、そこで勝っていかないといけない。まだ高い期待を持つのは早い。そう思っておこう。

■誰が優勝しても構わないが脱落合戦にはするな
貴景勝と言う軸がなくなった。期待したい霧馬山も腕の状態が明日以降どうなっているか不透明だ。若隆景は初日を出したものの1勝5敗と優勝争いからは「圏外」と言い切ってよいだろう。豊昇龍も変化に頼る相撲を見せてしまった。もう、いつ、誰が誰相手に負けてもおかしくない。そんな状況になっていくのではないかとすら思う。そんな中でも、終盤になれば優勝争いは起こる。言うまでもなく、どんな場所、どんな成績だろうが、1名は必ず優勝するのだ。ゼロでもなければ2でもない。そんな中で、この優勝争いから脱落していく人が出てくるわけだが、脱落するのなら。同じく優勝を争う人に敗れての脱落であってほしい。もうこんなことを思わないといけないかとすら思わせる中盤の入り口の6日目だ。誰が優勝したってかまわない。だが、消去法ではなく。優勝者は優勝を争うものを蹴落とし、蹴落とされた人が勝った人が優勝する。もうそんな展開を望むしかないのだろうか。

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