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3summer story 2022

運命のひとではなかった

あの時と同じ真夏の暑い日に、私は彼に会うと決めて試合会場へ行った。その日会えなかった。試合中に負傷をして試合は欠場となり、入院していた。

もともと彼に渡すつもりの腰痛を緩和するクッションを手にしながら、なおさら渡したい。競技関係者からご関係はと聞かれ、とっさに知人です友人ですと答えた。

さらっと直接クッションを渡すつもりが、関係者の方へ託すことになり、とっさに持っていたメモへ走り書きの手紙を残す。前もってちゃんと手紙を書こうと文章まで考えていたのに、書いた内容を覚えていないほどの即興書き。

その試合会場からの帰り道、11年前にここで仕事してたなー。その時は、11年後にここを通ってると思わないだろうな、とか。3年前に、3年後のいまを想像できなかっただろうな、とか。ここ数年は遠出することもなかったから、余計に帰り道の車内がすごく長く感じた。

家に着いて、すぐさまジムへ行った。ソワソワして落ち着かないから、そんな時はジムで体を動かすのが一番。私には筋トレやヨガをすることが、カラダもキモチも伸びる動く瞑想だから。

ジムから帰ってシャワーを浴びて、ストレッチをしたり、愛するシバ犬の横でゴロゴロしていたとき、電話が鳴った。

間違いなく彼でした。

電話を持って立ったまま電話に出て、部屋の中を歩き回りながら必死に耳を傾ける。聞き慣れた声(いまは選手インタヴューもすぐにネットで観れるから)のような気もするし、関係者との状況を説明しながら、笑える話などでアイスブレイク。お互いずっと敬語で話していた。

どう過ごしていたかと聞かれて、私からこの3年で色々あったことを話し始める。彼に会ったことで、そのスポーツが一番好きになったこと。だから試合もライブで観て応援していたと。個人事業だから、仕事も長く軌道に乗っていけるよう、自分次第で動きつづけていると。

彼の近況報告を聞く前か、聞いた後かは忘れてしまったけど、私がなぜ彼に会いに行ったかを率直に話した。彼が一瞬言葉が出てこなかったようにも感じたけど、周囲の雑音もあったし、伝えられたことで十分だった。長時間運転をすることになるから早く出発した方がいいのに、車を停車してまで私の話をちゃんと聞こうとしていた。

どう捉えたか、人の思考や気持ちまではわからないけど、私は私である。彼は彼である。そして彼の近況を聞いて、言葉を選んでくれているのがありがたかった。うっすら予想していたから、渡したクッションのように緩和できたんだと思う。

手紙をみて、すぐに思い出したのか、私の何をよく覚えていたのか気になった。この出会った日のことを聞いてみたけど、私の二の腕をたくましいと言ったことを覚えていなかった。

なぜ私のことを覚えているのか、今度聞いてみたい。きっと認識や捉え方が違っているはずで。なおさら真実を知らないと、私が前に進めない。