幸せな女たち(第三話)
【まえがき】
note、創作大賞2024応募作品。
女性向けの恋愛小説。
漫画原作部門、投稿。
【第三話】
「ん?何だ?俺の知り合い、もしくは、ファンか?」
「私、こないだ、サンマルク市国まで行って、スティーブさんが、アーチェリーで優勝するの、見ました!!スティーブさん、途中で倒れて、搬送されちゃったけど」
「あぁ、俺、二度寝しちゃって(笑)」
「スティーブさん、今、どうしてここに?」
「パトロール中(笑)」
「パトロール?」
「知らない?俺、特別警察官で、ジアルダークから、テレポートの権利と魔法の力を与えられてるの。ポストの前にしか、テレポート出来ないけど、ジアルダーク中のポストの前になら、瞬間移動出来るぜ」
「すごーい!」
「おっと、そろそろ時間だ」
スティーブは、腕時計の針を見て、別れ際、挨拶をした。
「じゃ、またな」
「あ、握手してください!」
「あいよ」
スティーブは、シャンティの手を握ると、また、どこかへテレポートしていった。
そこへ、タクシーに乗ったロイドが現れる。
「シャンティ様、さっきの方は?」
「んふふふふふ、後で話してあげる♡」
と、ご機嫌で、タクシーにシャンティは、乗り込んだ。
◆
「え!?で、一人だけ、スティーブに会って来たの?!うらやましい!!」
翌日の学校では、旅行に行ってきたシャンティたちの話で、クラスは持ちきりだった。
「ラッカルのシェモア駅のポストの前で?!あーあ、私も会いたかったなぁ」
「昨日、記念品屋さんで買ったファンブックにも、スティーブは、特別警察官をやってて、ジアルダーク中のポストの前に、瞬間移動出来るって、書いてあった」
その本をサリーたちにも見せるシャンティ。
「本当だ。よく、偶然、会えたね。会いに行っても、会えなかったのに」
「本当、偶然」
「で、シャンティ、あんた、スティーブに会って、何がしたかったの?」
「いや、パトロール中だったらしくて、自己紹介する時間とかなくて、また、会えたら、名前くらい覚えて欲しいんだけど」
「ってことは、あんた、スティーブに惚れてんの?!」
「ち、違うわよ。ただ、有名人だから、ファンなだけ」
「本当?!あんたまで、リドニスのホワイトール(白の女王)になっちゃったら、嫌だからね!」
「わかってるわよ、ラベンダー」
ホワイトール(白の女王)と言うのは、一度、自分の城をリドニスで持たされると、生涯を終えるまで、ホワイトールを辞める事が出来ない。
なので、もし、女友達がホワイトールになってしまったら、なかなか会って遊べないので、辞めて欲しいと言うラベンダーの気持ちだった。
(私が、ホワイトワやホワイトールになるだなんて、ありえないけど、ありえないけど、スティーブ、かっこ良かったな……)
と、今度はせめて、世話人のロイドと二人でトーナメント観戦に行きたいと思っているシャンティなのでした。
◆
「今日も、異常なし、と、さ、屋敷へ帰るか……」
スティーブは、半年に一回、一ヶ月眠る代わりに、普段は、夜、眠らない。
なので、朝まで、ジアルダーク中の巡回を終えると、ジアルダークの中央にある、首都、リドニスの自分の屋敷まで、帰ってきていたのだ。
「ネロ、朝食を頼む」
「かしこまりました、ご主人様」
ネロは、屋敷に勤める家政夫の男。
ネロは、すでに準備していた朝食を並べたテーブルへ、スティーブを案内した。
「何か、異常はないか?」
スティーブは、食べる支度をしながら、ネロに話しかける。
「異常は、ありませんが、奥様方から、沢山の手紙が届いております」
「あぁ、一人ずつ、仕分けて置いてくれ、後で目を通すから」
「承知いたしました」
スティーブは、18人の妻に、今でもモテモテだった。
しかし、なかなか、仕事優先で、城には基本的に帰らない、スティーブなのだった。
━━━━スティーブは、いつも、リドニスで夫選びトーナメントに優勝すると、3ヶ月、城に滞在し、つまり、三回、夫選びトーナメントに優勝して、城で、妻と子供を作り、女の子を数人、男の子を十人ほど、3ヶ月の間に産ませては、次のトーナメントに参加する手続きをしていた。
なぜ、そんなに新しい妻ばかり求めるのか、それは、スティーブが、ジアルダークをもっと、強くして、守りたかったからである。
自分の子孫であれば、必ず強いはず、そう思っての事だった。
しかも、女の子が産まれれば、子孫が莫大に増えるから。
スティーブは、20才になってから、トーナメントに参加しはじめて、初めから優勝、それから、18人のホワイトール(白の女王)の第一夫に選ばれた、強者の25才だった。
スティーブは、元々、ジアルダーク国の北の都、イグダドの出身で、元々、生涯一人だけの相手と人生を共にする習わしがある町の出身だったが、度重なる戦争で、ジアルダークが危機に陥ると、立ち上がり、ジアルダークのために、人生を捧げようと心に決めたのだった。
◆
ジアルダークと仲の悪い国は、南以外のすべての方向にある国。
その南には、同盟国、ミルレフがあった。
ジアルダークとミルレフは、たまに、合同軍事演習などを行っていた。
スティーブは、サンマルク市国で撮った、街なかの風景写真と自分の自撮り写真を封筒に入れて、18人の妻に、それぞれ、短い手紙をつけて、送った。
◆
「━━━━シャンティのヤツ、リドニスから帰ってきてから、様子がおかしいんだ」
「なるほどね」
親友クリスが、必死に、クラスメイトのカインに、シャンティが恋をしたかもと、慌てている。
カインは、久しぶりにクリスが家に遊びに来たので、お茶とお菓子を世話人の男に、出させていた。
カインの家は、シャンティの畑と牧場の隣で、2倍の広さの農園をカインの父親が経営していた。
カインは、その家の長男だった。
「あのシャンティが、恋、ね……(笑)」
「笑ってる場合かよ、カイン。シャンティが好きなのは、あのリドニスの夫選びトーナメントで優勝しまくってる、スティーブって男なんだぜ?」
「それは、困った、と言えば、困ったかも」
「シャンティ、ホワイトワ(白の姫君)になるつもりなのかな?」
「まさか」
「確かめてみようぜ?」
◆
シャンティは、こないだスティーブに会ってから、スティーブの事がずっと、頭から離れなかった。
最初は、物珍しさから、会いたかっただけなのに、あんなにフレンドリーで、話しやすい人だったなんて。
そのギャップにも、やられていた。
(でも、よく考えたら、10個も年上。しかも、18人も奥さんいるし……)
ジアルダークの子供は、産まれると、左足の裏に、母親の名前、右足の裏に父親の名前が浮き出る体の仕組みになっていた。
なので、シャンティの足の裏には、左足に、フィオーレ・ジョボビッチ、右足には、ジェラルド・ラモレットと、書いてある。
なお、足の裏に出る名前の色は、それぞれ、両親の瞳の色と同じで、フィオーレは、青紫、ジェラルドは、緑色だった。
また、名前が決まると、腰の後ろのお尻の上辺りに、生年月日と名前が魔法で体に刻まれ、それで初めて、出生登録が出来た事になっていた。
この時は、本人の瞳の色で、腰の後ろに文字が浮き出る。
スティーブは、現在、18人のホワイトール(白の女王)が産んだ子供たちの父親であるが、すでに、子作り出来る権利は失効しており、第一夫と言う肩書きだけが、残っている状態だった。
つまり、現在は、実質、フリー、つまり、独身なのであった。
ホワイトール(白の女王)と子供が作れるのは、優勝してから一ヶ月の間だけ。
なので、いくら、第一夫と言えど、リドニスでは、現優勝者の夫でないと、性行為出来ないのだった。
ハグとキスまでは、許されていたが、それも、監視する人間たちが沢山いる場所で、するしかなかった。
これが、リドニスのホワイトール(白の女王)でなければ、優勝とか、関係なく、第一夫になれば、好きな時に、妻と子作りも出来たが、ちなみに、第二夫以降でも、夫なら、いつでも、子作り出来る。
いくら、実質、独身者とは言え、もし、万が一、スティーブの恋人にでもなったら、一躍、有名人になる事だろう。
(そもそも、スティーブが、結婚してない女性と、子供を作るなんて考えられないから、そうなったら、多分、ラッカルで結婚……)
「いやいや、何、考えてるの、私ったら!」
シャンティは、自室の部屋で、1人、顔を赤くしながら、ソファーの上で足をバタつかせていた。
◆
コンコン。
「シャンティお嬢様、ご学友のクリス様とカイン様がいらっしゃいました」
「クリスとカインが?何かしら。通して頂戴」
「かしこまりました」
(一体、何かしら?たまに、遊びに来る事はあるけど……)
シャンティは、支度をして、二人が待つリビングへ行った。
すると、二人は、ソファーから立ち上がって、シャンティをマジマジと見た。
「な、何??」
「な?いつもと髪型とか、服とか、ファッションも違うだろう?」
「確かに」
「シャンティ、スティーブに会ったって、本当?」
「本当だけど……」
(人づてに聞いたのね、やれやれ)
「単刀直入に聞くけど、シャンティ、スティーブの事が好きなの?」
「ええええ?!何、突然」
クリスとカインは、真剣な目で、シャンティを見つめていた━━━━。
≪つづく≫
【リンク】
◆「幸せな女たち」(第四話)
【あとがき】
あっという間に、三話です(笑)
応援、よろしくお願いいたします。
【登場人物】
◆シャンティ
銀髪に、桃色の瞳をした、15才の少女
◆スティーブ
リドニスの夫選びトーナメントの優勝者、常連の男、25才
◆ロイド
シャンティの家の世話人の一人
35才の男
◆サリー
シャンティの女友達
◆ラベンダー
シャンティの女友達
◆ネロ
スティーブの屋敷の家政夫
◆フィオーレ・ジョボビッチ
シャンティの母親
◆ジェラルド・ラモレット
シャンティの父親
◆クリス
シャンティの男友達
◆カイン
シャンティの隣の農園の長男
クリスの友達
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