「オッサンが女子高生になるまで」第一話
<あらすじ>
妻子持ちの菅野夏希五十二歳、若さを司る神と取引をして、女子中学生に生まれ変わった。しかし、夏希の生活環境は変わらないままであった。残り寿命と引き換えに手に入れた自分の望む性。女として生きて行きたい夏希であったが、大黒柱のお父さんとして家族を守っていかなければならなかった。高校生の自分の娘よりも若くなった夏希に、妻との関係、子育て、仕事や学校と問題が降りかかる。また、女性特有の問題に戸惑う夏希に高校生の娘が世話を焼く。 これは、オッサンが女子高生になるまでの物語。
◇ 第一話 ◇
気がつくとオレは書斎兼仕事部屋で椅子に座り、机の上に置かれている紙を見ていた。A4用紙くらいの灰色っぽいその紙には、梵字のような読めない字が縦書きで何か書いてあって、左下にはオレの字で菅野夏希と名前が書いてあった。そしてその名前に重なるようにして血判がしてあった。
「あれは、夢ではなかったのか?」
オレは恐る恐る股間に手をやる。
「……、ない」
オレは穿いていたズボンもパンツも脱ぎ捨て股間を確認する。
男の象徴である突起物がきれいさっぱり無くなっていた。そして、女として早速分かったことがあった。女子は自分で自分のアレをちゃんと見ることができない。
オレ…、私…、本当に女になれた? 女子になれた? 女の子になれた?
あー、でも、これもまた夢の続きだったりして……。
ちょっとアホらしいと思いながらも、ドラマ、漫画とかでよく見る自分の頬をつねるやつをしてみた。
「痛った!」
夢かどうか本当に自分の頬をつねるのは初めてだ。
昨日、オレは仕事が終わらず、妻と子供が寝た後も自宅の作業部屋で仕事をしていた。
最近は在宅作業をすることが多い。自宅での作業だから、だらしない格好をしていても誰かの目を気にすることはない。また作業するパソコンも私物なので、画面に何を表示していても気にすることもない。昨日も仕事の合間、性同一性障害の記事を漁っていた。
検索窓に入力するのは決まって、”性別違和 MtF 既婚子持ち”の三つだ。検索結果で表示されるものは、みんな閲覧済みのものばかりだ。次のページを見ようと画面を下にスクロールすると、検索結果の一番したに、これまで見たことのないWEBページのタイトルが目に入った。
『命と若さを交換いたします……』
「命と若さを交換いたします」って、美容整形かその類のサイトであろう。 そう思いながらも少し気になったので、『命と若さを交換いたします』のリンクをクリックした。
バチッ、シューン
パソコンに繋がっていた四台のディスプレイ全部が突然真っ暗になった。
「あちゃ~、汚染サイト踏んでしまったか!」
そう思った瞬間、自分の意識も飛んだ。
「おーい、お前さん」
どれくらい間、意識が飛んでいたのだろうか? 誰かの声が聞こえてきて意識が回復した。
でも、なんか聞こえ方がおかしい。声が直接脳に届いている感じだ。夢の中にいるような感じだけれども、声は鮮明に聴こえてる。
目を開けると、オレは薄暗い灰色一色の部屋にいた。自分の意識だけがその部屋の中にあって、空間を漂っているような感じだ。
まだ夢を見ているのだろうか?
「やっとお目覚めですね。
私は若さをつかさどる神、夭夭という者です。
お前さんの願いを叶えるため上から降りてきた者です」
姿はよく見えないが、声は鮮明に聞こえる。
「若さをつかさどる神? 年を取らないとか、若返えさせるとかそんな感じのこと?」
「はい、おっしゃる通りです。
お前さんの捧げ物によって、どれくらい若返られるかか決まります」
「でも、どうしてオレの所に? 大概の人は若返りたいと思っていると思うけど?」
「お前さんの所だけに降りている訳ではないです。 若さを願う沢山の人に会いましたが、私に選ばれた多くの人は辞退するのです。」
「何故、みんな辞退してしまうのでしょう?」
「それはですね、私への捧げ物が命だからです。若返える年の分、お前さんの残りの寿命が減るのです。その減った分の寿命が、私への捧げ物になります」
「寿命を削って若返っても仕方ないし、この話、オレも辞退してもいいですか?」
「辞退しても何も問題はありませんよ。 私と会った事も記憶から消えて、元の生活に戻るだけです。
でも、お前さんの本当の願い、私、知っていますよ。
女になりたいのであろう?
性別変更は私の領域外ではあるけれど、この願い叶えることもできないことはない」
(マジで!)心の中で叫んでしまった。
性別が変えられるのなら、この話、乗ってもいいと思った。若返えらせることができるのなら、性別を変えることも容易いのだろう。
「そう、マジで」
心読まれている! 夭夭という神の姿は見えないが、きっと彼女は今、「ちょろい、釣れた」って顔をしているに違いない。そんな口調の声だった。
でも、女になれるのなら……
「その話、もう少し聞かせてもらえますか?」
「はい、いいですよ。興味沸いたようですね。手短に話します。
お前さんの残りの寿命を全部私に差し出してください。そしたら、お前さんを十二歳の女子中学生にしてあげましょう。そして十二歳になったお前の寿命は六年、高校を卒業するまでです。
どうでしょ? なかなか良い条件でしょ?
今、決断してください。今決めなければ、この話はなかったこととします」
「どうしてまた十二歳の女子中学生だんでしょう?」
「ん? 二十歳の女性がいいの?」
「いいや、そう言う訳ではないですけど、なぜ十二歳なのだろうかと思って訊いてみただけです」
「それは、お前さん自信がよく知っているのでは?」
「あの、生まれ変変わった後、家族とかはどうなるのですか?」
「何も変わらない。今の家族の中で、お前さんは十二歳の女の子として生きていきます」
「妻や子供には何て話せば……」
「それはご自分でお考えください。 さあ、どうなされますか?」
何処から出したのか、夭夭は灰色の紙とペンらしき物、そして小さなナイフを机の上に置いた。
「これが命の契約書になります。心、決まりになりましたら、このペンでお前さんの名前を書いて血印してください。血印にはこのナイフをお使いください。
血印、お手伝いいたしましょうか?」
「お願い……、します」
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