「オッサンが女子高生になるまで」第二話
◇ 第二話 ◇
「あなた、朝ごはん出来たわよ。珍しいわね。いつもは私より早く起きているのに。体調でも悪いのかしら……」
妻の千穂が階段を上がってくる音が聞こえる。
寝室のドアが開く音が聞こえて、すぐに閉まる音が聞こえた。そして書斎兼仕事部屋に足音が近づいてくる。
オレは女になった証拠を探すため、ズボンとパンツを脱ぎ捨てていたので、下半身裸の状態だった。
ガチャっと部屋のドアが開いた。
「あなた、起き……、えっ」
千穂は結構長い時間、金縛りにあったかのように、ドアの前で突っ立ていた。
それも当然だ。中学生くらいの女の子が、Tシャツ一枚だけで下に何も穿かずに、夫の机の前に立っているのだから。
妻の顔は短い時間の間に、恐怖、怒り、困惑と表情が目まぐるしく変わっていた。きっと妻の頭の中は、「この人誰!」、「強盗?」、「浮気! 堂々と?」、「幽霊? 朝なのに」と無限ループしていたに違いない。
「千穂!オレだよ! オレ!」
「ど、どちら様ですか? 新手のオレオレ詐欺ですか?」
「夏希だよ、夏希!」
千穂に夫の夏希であることを言うが、千穂は全く信じない。黄色く高い女子の声と、まる見え状態の下半身は女そのものなのだから、信じないのも当然だった。
「あー、もしかして帰る家、間違えちゃった? とりあえず、下、何か穿こうか」
千穂の口調が優しく変わった。誰と勘違いしているのだろう? 病院から脱走してきたとでも思っているのだろうか。
とりあえず、Tシャツ一枚ではたとえ妻とはいえ恥ずかしいから、さっき脱いだパンツとズボンを穿いた。しかし、サイズが合わない。手で押さえていないと、パンツもズボンも下に落ちてしまう。
「あの、このパンツもズボンも夫の物なので後で返してね。それと、知らないおじさんの下着穿くの気持ち悪くない?」
「気持ち悪いって、ひどいな~。たしかに知らない人の使用済み下着を穿くのは気持ち悪いけどさ、これはオレのパンツです」
ずり下がるパンツとズボンを上げなら、千穂の顔を見ると、思いっきり引きつった顔をしていた。
「あの、お名前は? 何て呼べばいいのかしら?
お家の人とか連絡付く人いる? 電話番号教えてもらえれば電話するよ」
こんどは幼稚園児に話しかけるような口調になった。
「菅野夏希五十二歳! 結婚十八年目、子供四人の六人家族です! 電話番号は555-43-4989、資産四苦八苦と覚えやすい電話番号です」
少々やけになりながらも、低い声を意識して答えた。最後の資産四苦八苦は自分で言っておきながら笑ってしまった。43-4989はうちの電話番号なのだ。
「ホントに……、夏希……、あなたなの?」
千穂はそれから、子供の誕生日や二人出会った場所、夫婦二人にしかわからないエッチな事などを質問してきが、全て答えた。
併せて、夭夭と呼ばれる若さをつかさどる神との契約、また余命6年であることも妻に話した。
そして、机に置いてあった契約書を手に取り千穂に見せた。
「えーー、はぁーー、んーーー」
千穂は驚きなのか溜め息なのか、よく分からない唸り声を上げている。
「千穂…、オレ…、女の子になっちゃった!」
重く漂い始めた場の空気を軽くしようと、少しオチャラケて言ったが、千穂は不安な表情を浮かべたまま、苦笑いをするだけだった。
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