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読書『ビボう六』

どうにもこうにも考え事が頭を離れないので、こういう時は考え事を加速させる人文書や仕事で読まなきゃならない本ではなく、違う世界に逃避できる物語を読むに限ると『ビボう六』(著・佐藤ゆき乃)を読みました。

そこそこ前に西村ツチカさんのイラストに惹かれて購入したものの、なんとなく今読むタイミングじゃない、と積ん読していた一冊。今日の朝「今かも」と思って手に取り、短かったので3時間ほどで読み終えました。

ミシマ社公式サイトからあらすじを引用すると、

●『ビボう六』あらすじ
肉親からの暴力や容姿のコンプレックス、叶わない恋に苦しみ、生きるのが辛い小日向。彼女は、「夜の京都」に落下し、これまでの記憶を失った。そこで出会ったのは、土蜘蛛の怪獣ゴンス。物忘れが激しいため、「ビボう六」という帳面を持ち歩き、忘れたくないことを書き留めているのだった。ゴンスは、小日向が元の世界に戻れるよう手助けするうち、恋心をどんどん募らせてゆく――。

https://mishimasha.com/books/9784909394958/

といった内容で、この千年を生きる土蜘蛛のゴンスが優しく清らかで素敵なキャラクターでした。

ゴンスが抱く、恋をしているときの面はゆい、甘酸っぱい、悲しくないのにちょっとだけ涙が出そうになるあの感じに読んでいるこちらもくすぐったい気持ちになるのですが、そのきらめきの分、小日向さんが欠けた自分を責める描写や、誰からも愛されない絶望を吐露する描写が妙にリアルに感じられ、対比が苦しかったです。
「昼」と「夜」の対比の物語でもあるので、この辺の表現は意図的なんでしょう。

そしてゴンスは蜘蛛らしく節足が生えているのですが、通常の8本ではなく6本に減ってしまっています。このあたりは源頼光の土蜘蛛退治のお話を知っていたので、思わず「頼光側のことばかりで、土蜘蛛側のこと考えたことなかったな……」と感じたりも。

ハッピーエンドではないものの、夏の夜に読むのにぴったりで、私も昼より夜がずっと好きだなと思えた読書でした。

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