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花の都の春舞台

北野をどり。
上七軒夜曲を聞くと春が来る。西陣に生まれた人間であるから尚更そう思うのかもしれない。

京都に真っ先に春の幕開きを告げる舞台だ。



上七軒歌舞練場、天満宮に護られ西陣の目の肥えたお客たちを満たしてきた、日本最古の花街。
清廉で典雅。舞踊劇と純舞踊の二本立て。山の天狗さんがお城で団扇を取られ、華やかな御城下で悲嘆にくれる。
都のにぎわしさに、気後れする里の娘。
舞台背景の大道具は御城下と言いながら、上七軒の提灯のともり、山鉾の出た美しい京の都。

惚れ惚れする夢の都だ。己の為に泣いてくれる里娘のいじらしさ、男役の天狗さんのコミカルさのあるかっこよさ。
一本下駄で舞う、若手芸妓さんの扮する山の天狗たち。技巧もしっとりした情緒も。
この町は特別に愛おしく思う。
北野天満宮を唄い、利休椿に見初められ袱紗捌きは習うても、恋の作法は知りもせぬと、お茶のお家元のお膝元であることを歌う。



都をどり。
能の流れを汲む京舞井上流の古雅で堂々たる舞踊。維新志士ご贔屓の里の、内国博覧会に際して目玉のショーとして考案された総踊り。青い枝垂れ桜の衣装に、ヨーイヤサーで上がる幕に春も盛りの桜の季節がやってきたと思う。



囃子方の立方さんの奏でる祇園囃子が派手に可憐に響く。御所でやんごとなき方々が目にされた京舞は御所の御殿の襖に因んで銀地の襖を背景に舞う。紫式部ゆかりの多賀大社の梅の花を言祝ぎ、芸妓舞妓が涼しげな衣装で六条渡りの夕顔の生垣の垣間見の色恋を偲んで舞う。
時は平安、光の君の美しい舞姿、正妻葵の上は病に伏せる、能の葵上を彷彿とさせる六條御息所のあくまで気高い恋煩い。青白い袿の照らされて浮かび上がる幽玄。
流された先の須磨明石。明石の君は撫子色の汗衫でいかにも田舎風だが、すぐには一緒になれない恋の切なさが美しい。勇壮な龍神の男舞は本当に神々しくてお囃子の曲調格好良かった。
最後に祇園甲部の、歌舞練場の賑わいを唄いあげるのも、幕が降りても桜の盛の祇園町が続いているのもとても素敵だ。

看板をデザインなさったのはアーティストの村上隆。プログラムに寄せた文化、美の担い手をこれからも支え継続させるべきという論、さすがだった。


宮川町の京をどり。
弥次喜多が夫婦でタイムトラベルをする筋書きからして新鮮でぶっ飛んでいたが、会場である芸術系の大学とのコラボ!


ガッツリ、アニメーション映像から始まる舞踊は初めて見た…

そして何より嬉しく息を飲んだのは、舞妓ちゃん全員の紹介パネル。

芸舞妓、花街の存在はともすれば偏見や好奇な目で見られ、誤解されがちであったり、批判されがち、ネットですら実態を知らない人達が挙って批判した事もあった。

この紹介パネルとインタビュー文は学生さん達、指導に当たる研究室の先生方が花街文化をリスペクトすべき芸術文化、現代社会に生きている歴史、息をしていて触れられる文化財としてとても大切に考えて取材なさっていて。

京都に暮らしていても、他府県から来たら尚更触れたことの無い、逢ってお話する事も滅多にない、大学生からしたら歳下の女の子たちを一人の尊敬すべき文化の担い手、妥協しない美の世界の職業人として話を聞き、舞妓さん、(実は舞妓さんは学校法人に通う歳下の専門的な学校の学生さんなのである)の若々しく素直な心情やお稽古事やらの苦労、志を書き出している。全員を推したくなるように。花街的な言い方をすればご贔屓にしたくなるように。
溌剌として華やかな京ことばで、綺麗に述べられている。

学生さんの伝統工芸とのコラボ課題の展示やアニメーション制作。芸術系大学に来たな!と懐かしささえある。

お舞台のストーリーでも、アニメーション映像と日本舞踊、実写映像とアニメーションのコラボがとても面白かった。
グッズも芸舞妓さん全員の似顔絵缶バッジとか可愛かった。
美術系学生さんのコラボだからできること。
今どきのピカピカしたキラキラな絵柄で描かれてる芸舞妓さんたち(学生さんそれぞれの絵柄や好みがそれとなく解って楽しい)
舞妓ちゃんがデザインしたグッズ。
他の花街では和菓子、料亭のお持たせ、織物染物の小物や草履、とかポスターを描かれた日本画作家先生のグッズが多いけれど、とても新鮮でよかった!

京都という街に生きる文化たち、芸術を志す学生たち。会場に至る展示も含め見目麗しく楽しませてくれてタイムトラベルに連れていってくれる素敵な作品、企画展のように思えたのだった。

それぞれの町の色のあるお舞台。志を持ち芸事の修練を重ねるその歌舞音曲の担い手、そうしてそれを支えて隣合ってきた町の人は、押しも押されぬ京の魅力を作り出し歴史を紡いできた。
そして、その文化を尊敬し魅了され、新たな色を足してくれる芸術作家、美を芸術を志す素晴らしい若い感性の学生さんたちがいる。

京の都は今日も都だ。
今日も明日も、美の、花の都である。

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