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ショートショート『円盤』

それは突如現れた。
世界各地の上空に巨大な円盤が、飛来するともなく空間に突然現れたのだ。
世界中がパニックになった。
ある国では侵犯行為とし、警告の通信を試みるも反応がないためやむなく撃墜にかかった。
狙いをつけるためレーダーで位置を補足しようとしたが、その円盤はレーダーで感知できなかった。
戦闘機やミサイルを使い手動で攻撃が行われた。
しかし、着弾の間際になって円盤の周りの空間が歪みだし、そのまま忽然と姿を消してしまったのだ。
そうだと思うと、次は別の場所に現れる。
何度攻撃しても、弾は当たらなかった。

人々は宇宙人の科学力に心底驚いた。
とても人類が勝てる相手ではないと、誰もが思った。
だがいきなり滅ぼされるのは悔やみきれない思いが残る。
なんとか通信できないものかと、あらゆる手段でコミュニケーションが試みられたが、いずれも何の反応も返ってこなかった。
やがて、それは現れた時と同様に、忽然と姿を消した。

世界中が、円盤の話で持ち切りになった。
一体何の目的で地球に現れたのか。
円盤が見せた科学の正体はなんなのか。
様々な憶測が流れたが、謎は残るままだった。
ただひとつ分かっているのは、地球の科学力は宇宙人の足元にも及ばないということだけだった。
それから、不定期に円盤は現れるようになった。
しかしいつも同じく、ただそこに居るだけで何もしてこなかった。
攻撃は無駄と分かっているため、様々な通信手段
が試みられたが、相変わらず応答が返ってくることもなかった。
禍々しい円盤は、威圧するように街に影を落とす。
その姿を見て、人々は様々な反応を示した。
勝ち目のない動物が捕食者に睨まれたように怯える者。
途方もない科学力と宇宙に憧れを抱く者。
絶対的な力を前にし、思わず背筋が伸びる者。
友好の意志を持って、円盤にサインを送る者。
未知の科学力と神々しい佇まいからか、円盤に攻撃的な意志をもつ者はもう居なかった。
やがて円盤がある光景は当たり前になった。
そして、人々の生活を少しずつ変えていった。
みな訳の分からない宇宙人を自分なりに解釈したのである。
宇宙人は、地球人と友好関係を結べるか調査しているのだと思った者は、良い人間であるとアピールするように、振る舞いを改めた。
怯える者は、少しでも慈悲の心をもってもらおうと、動物や植物を慈しむ態度を見せた。
またある者は、勤勉で有能であることを示そうと、仕事に精をだした。
そして、広大な宇宙と科学の可能性を前に、狭い地球で争おうとする者も減っていった。
様々な争いや奪い合いをやめ、地球は平和になった。

平和になった地球の、あるところのある一室に集まった者たちは、地球人で唯一浮かない顔をしていた。
この者たちは、全く新しい空間映像投影技術の開発に成功した。
本物のようにリアルで、大規模な投影ができる。
彼らは学生時分からの友人たちで、いつか発明で世界を驚かせることを夢みていた。
新技術が完成したとき、派手に祝杯をあげながら、この新技術をどうやって世界にお披露目するかを話し合った。
そして、世界中の空に同時に円盤を出現させることに決まった。
世界中が驚く姿を想像して、胸が高まった。
そしてその日、突如現れた円盤は世界を混乱に陥れた。
初めは大いに喜んだ彼らだったが、軍隊が出動し、国をあげての軍事作戦が行われた頃、次第に大事になっていく様子をみて、冗談だと打ち明けるのがこわくなった。
しかも、制御装置が故障し、不定期に投影装置が作動するようになってしまった。
どうしたものかとぐずぐずしている間に世界の混乱は収まった。
そして、あろう事かかつてない平和が実現している。
こだわりのデザインであるため、円盤は禍々しく、威圧的であり絶対的な存在感があった。
円盤は人々にとって、もはや神のような存在になってしまった。
そんな世界で、今更円盤は冗談だと言い出せるだろうか。
平和な世界は大混乱になるに違いない。
神が消えた世界を想像し、彼らは身震いした。

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