休学日記 8/12~8/20

8/12からは一週間ごとまとめて更新します。

8/12(土)
 早起きはできなかった。想定よりも2時間以上遅い起床に絶望するところから1日が始まる。展示最終日の明日は絶対とてつもなく混んでいるだろうと思い、多少無理してでも今日、シュヴァンクマイエルの展示を見に行くことにした。家の扉を開けた瞬間、サウナに入ったかと錯覚した。それくらい暑い。駅まで歩き、電車に乗って、乗り換えて、を繰り返すうちにだんだん足取りは重く、猫背になってくる。家を出るべきじゃなかった。昨日の今日で、わたしの体力も気力もこの暑さに対抗できるほど回復してはいなかったことに気がついた。でももう行くしかない。重たい身体を引きずって、乗換アプリを凝視しながら歩みを進めた。
 恵比寿に到着し、展示に行く前に事前に調べていたレトロな喫茶店でナポリタンを注文する。朝から何も食べていなかった。たばこの匂いと使い込まれた革張りのソファ、食品サンプルの飾られたショーケース。大きなシャンデリアの下の席でうれしかったけれど、渡されたカトラリーの持ち手には少しかすれたブタが並んでいた。ちらりと周りを盗み見ると、わたし以外の客はシックな木の持ち手のカトラリーを使っていた。そのほうが喜ぶと思ってくれたのかばかにされているのかわからなかった。ナポリタンはおいしかった。
 展示が行われているギャラリーに行くと、思っていた二倍以上の人が小さな空間でせめぎ合っていた。20万円の原画を目の前で買う人もいた。わたしはこれまでの人生でヤン・シュヴァンクマイエルを知っている人を数えるほどしか知らなかったため、こんなにたくさんの人がシュヴァンクマイエルを好きなことに驚き、それと同時に、少し落ち込んだ。わたしは彼の作品を「わたしだけが知っている最高なもの」だと思っていたのだと気づいた。アイデンティティの一部に他人を持ってくるべきではない。展示は素晴らしく、ポストカードを全種類買った。帰りに新宿でらんぶるに寄って、ケーキセットを食べながら読みかけの少年アヤさんの「焦心日記」を読み終えた。朝は全然大丈夫ではなかったが、展示とケーキと本でやっと大丈夫になれた、と思った。

8/13(日)
 朝方に寝たので午後2時すぎに起きた。夢の中で兄の妻(料理人)が作ったものすごくおいしいカレーを食べた。ハヤシライス風のカレーで三杯おかわりした。わたしに兄はいない。ハヤシライス風のカレーってなんなんだ、と思った。
 ラジオを聞きながら、ボロボロのバスタオルを切って縫って雑巾にした。4時間かけて2枚のバスタオルを解体し、12枚の雑巾ができた。わたしは案外雑巾づくりがすきかもしれないと知った。針を押し込み続けた右手の人差し指が痛かった。

8/14(月)
 ゴミ出しチャレンジ成功。牛乳の消費期限が過ぎていたのでホットケーキを作った。袋に書いてある通りに作ろうとしたら、100mlしか牛乳を使わないことに気がついた。それはあんまり牛乳の消費にならないなと思って、150ml入れた。薄べったいホットケーキがたくさんできた。焼き色も普段より上手についた気がして、次からもこうしようと思った。
 夜も牛乳を消費しようとして、チャルメラの味噌味に牛乳を加えて牛乳味噌ラーメンを作り、牛乳を吹きこぼしてIHを焦げ付かせた。8年前に飼っていたうさぎの写真をクラウドから掘り出して動物と暮らしたくなり、自分の命にも責任が持てないのに他の命を持つのは恐ろしすぎるという何十回目かわからない結論に達した。

8/15(火)
 昼に起きた。もう2日くらいお風呂に入っていなかったので、今日は昼間から長風呂をしようと決めていたので、入る前に今川焼きをチンして食べた。何も食べないで風呂に入ると気持ち悪くなってぶっ倒れるというのは両手で数えられるほど経験していたので、もう失敗はしない。普通にぶっ倒れた。30分くらいしか浸かってなかったのに。水を飲んでじっとしていたら1時間ほどでだいぶ回復した。髪を乾かしたり色々して、まだ少し気持ち悪かったので横になった。次に目が覚めたのは夜の7時だった。1日を無で終わらせてしまう!と焦って、大学の先生から借りたDVDで映画を見た。原語の字幕しかなくてしんどかったが、興味深かった。でももう一回くらい見ないとわからないかも。

8/16(水)
 一日中布団から出られず、これからのことや死のこと家族のことなどについて考えていたら終わっていた。

8/17(木)
 昨日とほぼ同じ。ただ、明日は労働があるため風呂に入った。カミソリで誤って腕を切ってしまい、半狂乱で泡のついたまま風呂から上がり濡れた肌に絆創膏を貼った。その後しばらくは動悸と手の震えが止まらず、22にもなって自分の血液を直視できないということが情けなくて落ち込んだ。

8/18(金)
 ツイートが好きでフォローしている人(一方通行)とケーキを食べに行ったら、なぜか卒業してから一度も会っていない小中の同級生男子がいた。同級生の存在と好きな人と対面しているという事実に緊張してケーキがうまく食べられず、お皿がどんどん汚くなって、こんなはずじゃないのに と泣きそうになる夢を見た。
 5日ぶりに外に出た。日差しは記憶よりも眩しく、ドアを開けた瞬間に熱気が顔に当たって不快だった。

8/19(土)
 朝方に寝たら7時に起きてしまった。午後からバイトだったので寝不足は困る。もう一度寝たら今度は全然起きられなくて焦った。バイト先の大学2年生に来年はいないんですねと言われたので「休学するのでいます」と言ったら、かなり驚かれたしドン引きしていた。それが普通だよなと思う。ドロップアウトへの恐怖は拭えない。わたしもそうだ。

8/20(日)
 起きたら正午をとうに過ぎていた。何をしていたか全く記憶にないけれど、気がついたら夜の8時だった。ベッドの上から動いていない。

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