休学日記 8/21~8/27

8/21(月)
 玄関チャイムの音で起きる。モニターを覗いても誰もいなかった。数日前にも夜に同じことがあった。薄気味悪いなと思う。バイトに行くために化粧をしようとしたら右目に小さなものもらいができていた。目薬をさす。これくらいなら朝昼晩目薬させば治りそうだなと思った。実際治った。8時過ぎに帰宅。明日からしばらく雨が続くので、溜まっていた洗濯物をどうにかしてしまおうと洗濯機を回す。浴室乾燥で乾かそうとしたけれど、あまりに量が多かったので一部は外に干した。大丈夫だろうか。虫がついたり夜中から雨が降ってきてびしょびしょになったりしないかな、と不安だった。

8/22(火)
 スマホが震える音で起きた。11時20分。ぼんやりする頭でまた就活エージェントかと思う。電話が切れてから一応電話番号を検索すると、大学のキャリアセンターからだった。そこでいきなり意識が覚醒した。11時から面談の予定だった。急いで電話をかけ直す。担当のキャリアアドバイザーさんが電話に出て「どうかしましたか?体調が悪いですか?」と柔らかく聞いてくれる。わたしは消え入りそうに小さな声で「あの、今、起きまして…」と言った。呂律が上手く回ってなくて、今起きたという言葉に説得力がありすぎると思った。アドバイザーさんはわたしの状態を知っているので「暑いので体調とかも崩しやすいですし」「朝が辛いなら次回は午後予約してみてくださいね」と、わたしが完全に悪いのに励ましてくれた。情けない。誰もわたしを責めてくれないのだ。外は雨が降っていて、昨日干した洗濯物はびしょ濡れになっていた。
 午後2時から美容院の予約をしていた。ずっと担当してもらっていた美容師さんが表参道の美容院に移動してしまい、2月から半年間も美容院に行っていなかった。表参道まで着いて行こうとしていたけど、思っていたよりも電車で1時間の距離は遠く、また料金も今までの倍のお値段になってしまっていてなかなか難しかった。しかし、流石に毛量が多すぎるし、毛先もパサパサでみっともない感じになってしまっていたので、初めて行く美容院に予約をしてみたのだ。担当してくれた美容師さんはサバサバしていて必要以上に喋らなかった。わたしが予約の時に「なるべく静かに過ごしたい」にチェックを入れていたからかもしれない。優しかったのだけれど、前髪の相談をしているときめんどくさそうに見え、胸がキュッとなった。わたしは被害妄想が激しい。前のバイト先でも、バックヤードで誰かがこそこそ話しているのを見るだけで悪口を言われているような気がしていた。大学でも廊下を歩くだけで馬鹿にされているような気がしていた。きっとそんなことはないし、他人はそこまでわたしに興味はないとわかっているのに。綺麗に仕上げてくれたけど、今日は顔のコンディションが最悪(目のあたりがむくんでいて一重だった)で一日雨だったのもあって全然テンションが上がらなかった。帰りに誕生日に従姉妹がくれたラインギフトを使ってサーティワンを買った。マスクメロンが一番おいしい。

8/23(水)
 9時頃目が覚めたのに起き上がれなくて結局3時になる。最近毎日これだ。夜の7時すぎにまたピンポンダッシュをされた。いい加減何怖い。何がしたいんだろう。今日は初めてモニターで走り去る人影が見えた。とりあえず幽霊の仕業ではないらしい。

8/24(木)
 カウンセリングに行った。前回は寝過ごしてすっぽかしてしまったので久々だった。休学したら学生相談室も使えなくなると思っていたら使えるらしい。「来てくださいね」と念押しされた。今年の4月に1年の時から担当してもらっていたカウンセラーさんが異動になり、新しいカウンセラーさんとはまだあまり打ち解けられていない。5月、2回目か3回目の面談で就活の相談をした時、「30社以上受けたのに全部落ちてて…」と言ったら「逆に30社しか受けてないんだっていうかー、100とか受けて全部ダメな人もいるのでー」と言われたのを引きずっている。あの後、甘ったれていてすみません…としばらく落ちこんだ。でも建設的なアドバイスをくれる人なので、わたしには必要なのだと思う。カウンセリングの後バイトに行ったら色々イレギュラーなことがあって、いつもの倍以上疲れた気がする。帰宅したら化粧も落とさず2時間くらい寝てしまった。「メイクをしたまま寝るのは顔に雑巾かけて寝るのと同じ」といつかどこかで聞いたな、とこういうことがある度に思い出す。

8/25(金)
 今日、休学届を出してきた。休学届にはゼミの先生の承認印が必要で、研究室に行くと先生は既に印鑑を用意して待っていた。まさかそこまで準備万端とは思わず面食らってしまい、挨拶もそこそこに急いで休学届を取り出した。先生はそれを受け取り、「ここに印鑑を押せばいいんですね」と言ってあっさりと署名した。判の押された休学届を返してもらうと、わたしはどうして良いかわからず微妙な沈黙が流れる。お忙しいだろうし、もう立ち去るべきなんだろうか。視線を彷徨わせたのち、もう一度お礼を言って立ちあがろうとした時、先生が「休学中は何か計画があるんですか」と言った。探るようでも気遣うようでもなく、本当にフラットな、思いついたから口にしたというような口ぶりだった。「何もありません…」とわたしが答えると「なら、少しは休めますね」と言った。先生にはわたしの状態を詳細には話していない。少し心身の調子が悪く、休学を考えているとたまにお話ししていたくらいだ。もっとも、わたしは合理的配慮の申請をしていたのでそれである程度の事情は察せられていたのかもしれない。話すべきだとは思っていたが、タイミングもなく、先生からも何も聞かれなかったためそのままになってしまっていた。「休んでる間でも、卒論などで何かあったらいつでも連絡してください」そう言って締めくくられた面談は5分にも満たなかった。先生は何も聞かなかった。その足で教務課の窓口に行く。「休学願を提出しに来ました」と言って書類を渡すと、係の方は記入項目を確認して「はい、受理しました」と言った。それで終わりだった。拍子抜けするほど全てがあっけなかった。あまりにもあっけなかったので、別に全部大したことないのかもと思った。でも、その考えは頭の中の誰かが いや大したことなくはないだろ と3秒で打ち消した。

8/26(土)
 1ヶ月ぶりに病院に行く。先生に休学することになった旨を話した。このおじいちゃん先生は明るくてよく喋るが、今日わたしの話を聞いている間はずっと眉毛が下がっていた。「まだ死にたいですか?」と聞かれて、「死にたいです」と言った。「死のうと思ったら、死ぬ前に絶対わたしのところに挨拶に来てくださいね」と言われた。先生はいつも同じことを言う。病院の後は用事がなかったので、前に友達におすすめしてもらった喫茶店に行って宇佐見りんさんの「推し、燃ゆ」を読み終えた。宇佐見りんさんの小説はいつも悔しくなる。同世代で、同じものを見ていてもわたしにはこんな風に書けない。喫茶店はケーキも紅茶も美味しくて、のんびりできてとても良かった。その後、フォロワーが品川にいるというので会いに行って、一緒にファミレスで夕ご飯を食べた。フォロワーは舞台帰りで、わたしも行こうか迷っていたものだったので話をしているうちに行きたくなってしまい、見守られながら明日のチケットを取った。2人ともお金がなさすぎてナイトワークの求人を一緒に見たりした。結局わたしは帰ってから全然ナイトワークではない期間限定バイトに応募した。

8/27(日)
 渋谷で用事があり、ちょうど出ようとしたところで、6月の教育実習を共に乗り越えた高校の同級生が渋谷にいると連絡が来た。なんという偶然。せっかくなのでちょっとだけお茶をした。彼女は推し活で渋谷にいたらしい。元気そうで良かった。休学するとは言えなかった。同級生と解散し、昨日チケットを取った舞台を見に行く。まさか二日連続で品川に行くなんて……そんなに近くもないのに……お金もないのに……と自虐しながら向かった。舞台はめちゃくちゃ良かった。来てよかった。やっぱりエンターテイメントにぎりぎりで生かされている。同じく急遽チケットを取った、昨日とは別のフォロワーと昨日とは別のファミレスに行った。お会計がふたりで3000円くらいで、やっぱファミレス最高!と言いながら帰った。この二日間はここ数年で一番アグレッシブだったかもしれない。よくこんなに動けたな、と我ながら思う。わたしは就活も諦めて精神疾患でなにもかもダメなのに舞台には行ける。最悪〜〜でも舞台は最高〜という自己嫌悪と快楽の狭間、死だけが救うなと思いながら無を繰り返している。とりあえず休学期間の生活費(とエンターテイメントに注ぎ込むお金)を稼がないといけない。

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