君の音で
僕は17歳の高校生。
いたってどこにでもいる高校生の僕だ。
ピンポーン
家のインターホンがなった。
「おはよー」
眠い目を擦りながらそういう彼女は近所に住んでいる1個下の幼馴染み。
高校も一緒でこうやって学校に行く。
彼女とは実の兄妹のようでお互いの一番の理解者だと思っている。
1日の授業が終わり学校に帰る。
今日は家で彼女と二人で晩ご飯を食べる。
というのもお互いの両親は共働きで、毎週の週末はこんな風になる。
帰って夕食の準備をする。今日のご飯当番はぼくだ。
外の冷気にさらされた家に入り、暖房のスイッチを入れる。
これだけで寒さを吹き飛ばせるなんて便利な世の中に生まれたもんだ。
そう独り言をいい、台所に向かう。
慣れた手つきで料理を進めていると、部屋に入ってきた冷気に肌が凍えた。
「インターホンくらい鳴らせよ~」
というと、ニットから髪がはみ出している彼女はいう。
「ごめん、ごめん。外寒くてさ~、いつのまにか気づいたら玄関にいたんだよ」
こんな会話をしているうちに晩ご飯が完成した。
食卓には白ご飯、肉じゃが、焼き魚、サラダという風に和食だ。
自分は薄い味が好きなので、基本的に薄味で作る。健康にもいいし。
「いただきます」
そういって箸を手に取るぼくとは対照的に彼女は席を立つ。
なんだろう...
そう思っていると冷蔵庫を開け、ソースを取り出した。
そうして彼女はご飯にかけ始める。
ああ、そうだ。こいつはこういうやつだった。
満足げにソースを冷蔵庫に戻し、ソースのかかったご飯を頬張る。
こいつには関西人の血が流れているんだろうかと何回も思った。
ソースをなんにでもかける偏食者なのだ。さすがにマイソースは持ち歩いていないようだが。
いつものことなので僕はなにも言わず、自分の手料理を自画自賛しながら、箸を進める。
ふと彼女を見ると、まるで三つ星レストランの料理を食べる芸能人のような幸せそうな顔、声をしていた。
こいつは将来、食レポを仕事にできるんじゃないだろうかと思ってしまうほどだ。
こんな顔をされるといつも作って良かったという気になる。
この後は一緒にお笑い番組を見て一緒に笑う。
9時になったら解散という感じだ。
いつも通りだと思っていたが今日は違った。
お笑いを観ているとき、彼女は笑っていたが泣いていた。
僕は泣くくらい面白いんだと思って触れないでいた。
彼女との時間はあっという間に過ぎ、彼女は帰っていった。
彼女のいなくなった家の空気は暖房に逆らうように冷えていく。
音を失った家は僕を孤独へと引き戻す。
ピンポーン
「ただいまー」
「おかえり」
両親が帰ってくると、僕は自分の部屋に戻り目を閉じた。
そういつも通り。
また「いつも通り」が来るように。
次の週。
「いつも通り」は2度と訪れないことを知った。
彼女は親の仕事の都合で離れた街に転勤することになっていたのだ。
自分の両親は知っていたようだが、彼女に口止めされていたようだ。
なんで教えてくれなかったんだろうと彼女に聞くと
「これを言ったらあの時間がいつも通りじゃなくなると思ったから」
と答えた。
彼女は涙を浮かべながら笑った。
僕は何も言えずにただ立ち尽くす。
彼女の「またね」にただ反射的に「またね」と返すことしか出来なかった。
それから彼女とは会えなくなってしまった。
毎週週末の夜は1人。
料理も1人分で音はテレビの音。
僕が好きだったあの頃の音はもう聞こえない。
あの音を今も愛している。
あの時の僕から変わらないでいる。
はぐれた心を繋いでくれる彼女の代わりなんていない。
ねぇ、もう一度聞かせてよ。
女々しいかな。
でも、その声を求めてしまうよ。
リグレット/ sumika
読んでいただきありがとうございました。
大切な人との時間は無くなったから大切だと気付くものだと思います。周りにいることが当たり前じゃないことを忘れないようにしたいです。まずは家族や友人に感謝を伝えることから自分は始めたいと思います。
母の日、父の日が近づいてきているのでこれを期に感謝を伝えてみてはいかがでしょうか。
最後になりますが、読んでいただきありがとうございました。他の作品もよろしくお願いします。感想、リクエストもお待ちしております。
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