欠片

6ヶ月付き合った彼女と別れて数日。

アルバイト、ご飯を食べる、寝る、の生活を繰り返してきた。

ある日の夜。

そうだ、レンタルビデオ屋に行こう。

前に観たアニメを借りてそれで時間を潰そう。


いざ借りてきて見ると

「あれ、あんまり面白くないな」

そう思った。好きなものだったのに。


こんな風に何をするにも何かが足りない。

楽しくない。

友達と遊んでいるのとは違う何か。


それに気付くのは少し先の話。


バイトでお金を稼いでは、友人の家で一緒に酒を飲んでは記憶にまったく残らないようなしょうもない話をして家に帰る。

自宅は一人暮らしで6畳の1Kだ。

扉を開けると孤独の空間が待っている。

今日は自宅の電気がついていた。

誰もいないはず、自分だけの居場所のはずが。

もしかしてと思い少し足が軽くなる。

固くかかった思い出の南京錠を開けるように、扉を開けるとそこには。


誰もいなかった。ただ自分が家を出る時に消し忘れただけみたいだ。

淡い気持ちは春風に軽く飛ばされてどこかへ消えた。


別れ話は彼女からで、理由は覚えていないがただ彼女からごめんの一言があったのを覚えている。

そのとき僕は彼女を信じることができていなかった。

今ではそう感じる。

携帯に残る彼女の写真や動画、頭の中に残る彼女が今日も僕に笑いかける。


辛い。

消そうと思えば消せるものにまだ希望を抱く自分が情けない。

嬉しいといって笑う君は今。

誰かの腕の中にいるのかな。

僕じゃない誰かに支えられて立っているんだよな。

君のコンタクト越しの潤んだ瞳に僕はもう映らない。


こんな気持ちは胸にしまってただ他のことで日々を埋める。

こんな生活。

なんとかしなきゃなと今日も思いながら、明日に向けて僕は寝床につく。

その日はなかなか寝付けず、何か忘れているようで落ち着かなかった。


時計を見ると15時過ぎ。

今日はバイトもない。

「おなかすいたし、駅のコンビニで弁当と雑誌買いに行くか。」

朝の冷気を吹き飛ばすような太陽をにらみながら僕は自転車に腰を乗せる。


駅まで行かずとも近くにあるのだけれど、自分はこっちのほうがいいと思っている。

自転車をこぎながらそういえば駅前のコンビニが好きになったのも彼女と出会ってからか。

二人で歩いて行く駅前のコンビニは自転車で行くよりも近く感じて、なかなか縮まらない距離にただ自己嫌悪になる。


特に予定のない僕は自転車で近所をサイクリングしようと思った。

それで少しはこの気分も晴れるだろう。

そう信じて。

買ったコンビニ弁当もたまには外で食べるのもいいだろう。

そう思い弁当を少し揺らしながら近くの公園に向かった。


肉屋のメンチカツに目を奪われそうになりながらも、遊具のない近所の公園にたどり着いた。

少し熱の冷めたコンビニ弁当を頬張る。

いつも食べてた味...

のはず。

なのに何かが足りない。

一つの欠片が。


それに気付いた僕は食べかけの弁当を置き去りに自転車に飛び乗った。


この街に。

あの6畳の空間に残る君の欠片を集めたらもう一度。

そんな気がして。


愛しい欠片を全てつなげても。

そこに彼女は映らない。


街が光を失い闇を取り戻す。

僕はただかすかに残る彼女の欠片をただ追いかけて。

街灯だけが僕の行くべき方向を照らすように立ち並んでいた。


気付いたときには僕はベッドの中。

カーテンの隙間から差し込む日差しに視界が真っ白になる。

枕はなぜか寝ている間にかいた汗とは思えないほどにぬれていた。

そういえばいつの間に家に帰ってきたんだろう...


東の空に大きな茜の玉が落ちていた。

時計を見ると朝の7時。

「溜まった洗濯物でも干すか。」

枕に残った思いを取り除くように洗濯機は音を立て始めた。


「おなかすいたしたまには近くのコンビニいくか。」

そうして僕は彼女との思い出に別れを告げた。


変わるときだ。

彼女の欠片を探した頭の中の自分に。

諭すように。


茜色の群青 /sumika


読んで頂きありがとうございました。

作品がだんだん増えてきました。お気に入りの作品はありますか?

2日に1本公開できているのも読んでくださる方がいてくれるからだと思います。

歌詞を音楽アプリで見るのとCDに入っている歌詞カードで見るのとでは、全く感じ方が違うことを物語を書き始めて感じます。

GW、もしやることがないなと感じる方は一度お気に入りの曲の歌詞を歌詞カードでじっくり見てみるのもいいと思います。

充実したGWを自分で工夫していきたいですね。

最後になりますが改めてもう一度。

読んで頂きありがとうございました。他の作品もどうぞ宜しくお願いします。













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