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19時1分発、都会行き
ある公演でご縁のあったひととお好み焼きを食べたのは少し前、クリスマス直前のこと。
お仕事に少し関わらせていただくことになって、その話をしに名古屋に向かった。
19時1分発。
私の住むところはまあ田舎といえば田舎。
名古屋を都会と呼びたいくらいには田舎。
都会行きの電車、夜に乗るとまるで都会に帰るような錯覚をくれる、赤い電車。
外から見ている時間より中で乗っている時間の方が長いから、私はこの電車が赤いことをおぼえていない。
おぼえている必要がない。
名古屋。
金時計の下にそのひとはいた。
お久しぶりです、お待たせしました。
行きましょうか。
はい、行きましょう。
岐阜を出る前にかぶった何匹もの猫が頭上で鳴いていた。
お仕事の話を終えて一緒にご飯を食べた。
名古屋らしいビルの中にある、初めて見るお好み焼き屋さん。
なにたべますか。
ひみつぅ。
そんなことあります?
メニューを選ぶころには連れてきたはずの猫が何匹かいなくなっていた。
今は何をしてるとか、これまで何をしてきたとか、昔の恋人がどうとか、お酒も呑んでないのにぺらぺら喋った。
お腹いっぱいになってお店を出ると、ひとりぼっちになった猫が寂しそうに鳴いた。
電車ですか?
地下鉄です。電車ですか?
電車です。
何Rですか?
私が乗ると言った電車を、その人は赤くてかっこいいと言った。
赤くてかっこいいなんて子どもみたいだと私は笑ってみせた。その人も笑った。
恥ずかしかった。
週に何度も乗る電車。
何Rでもない、私の住む街と都会をつなぐ電車。
その人より私の方がずっとずっと知っているはずなのに、私には言えなかった言葉がそこにあった。
この電車が赤いことを、私は知らなかった。
近すぎてわからないこと、そんなものいくらでもあると私はもう知っていた。
でもこんなきっかけで思いを馳せるとは思わなかった。
近づきすぎてしまった時はどうしたらいいんだろう。
降りてしまえばもう乗れない。
毎日同じ時間に走る電車は、昨日と同じ電車では決してない。
明日の19時1分発都会行きは、違う席が空いていて、違う人が座っていて、違う空気がつめこまれているから。
窓の外からだれかがこの電車の色を教えてくれたらいいのに。
そんなことを願ってもガラス越しに外を眺めることしか私にはできない。
透明の向こうには夜を溜め込んだ街だけがつづいていた。
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