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手に入れたくて仕方ないものを、手に入れた現実

好きで好きで仕方ない。そんな人の近くには寄らないほうがいい。
手が届かなくて、会いたくても会えない。苦しいのだけど、叶わない夢だからきもちが強くなる。
寄れば寄るほど、イメージと違う相手のアラが見えてくるかもしれない。こんなはずじゃなかった……。気落ちするかもしれない。嫌いになってしまうくらいななら、遠くから見てずっと好きでいた方がいい。

手に入れたくて仕方ないものを手に入れた瞬間、こんなもんだったのかとびっくりしているのが、今の私だ。

思えばほんの小さな願いだったんです。
毎朝起きるたび、
ああ……だるい。
理想の私とは程遠い。朝日を浴びて、ヨガなんかしながら、珈琲を淹れて、クロワッサンを食べる。優雅な朝は私にはない。
だるい体を無理やり起こして、ジャージとエプロンをつける。
車に乗ると、だんだん近づいてくるにぎやかな声。
もうそろそろ私はいちしばかわ すみかではなく
先生にならなくてはいけない。
口角を上げて、少し高い声をイメージする。
「おはようございます!!」
保育園の先生モードに切り替える。やったことはないのだけど、女優さんはこんな気分なんだろうか……。

園に入ったら、常に脳と体を動かし続けている。
給食の時間を逆算して、遊んで、食べさせて、寝かせる。終わったら書類を書いて、送り出して、車の座席に体をうずめると、シートにめり込んでいく気分になった。
ぼーっとして、目の前の空を見ていると、今日1日私は何をしていたんだろうと思う。
朝、ゆっくり起きたい。平日の誰もいない時間にモーニングに行って、静かな朝を迎えたい。
高級レストランの朝食じゃない。
500円で食べられるモーニングなの。
大きなことじゃないことですら、自由に出来ない今の私。何を悪いことをしたんだろうか……。

もやもやを抱えて、働いて、結局私は保育園に行かなくなった。
(事情は長くなるので、別の機会に)
放たれて、自由になった私は、とにかくしたいことをした。
1番に思い浮かんだのは、平日にモーニングに行くことだ。
誰もいない、静かなお店で、ぼーっとしたい。

急ぐ。早く、贅沢な時間を過ごしたくて仕方なかった。
緑生い茂る庭を抜けて、木目の扉の前に立つ。
入ろうとすると、店員さんが来て
「只今満席です。少々お待ちください」

えっ!? そうなの?
中を覗くと、主婦の集まり、若い男女
人で溢れていた。

私の理想から、かけ離れていた現実。
世の中の人は、こんなに平日に出歩けるんだ。
というか、平日が休みになっている人もいるんだ。
手に入れたくて仕方なかった、ことと、違っていた。

近くに寄りたくて、寄りたくて、仕方なかったものにやっと手が届いた。
理想と違う。
世の中ってそんな感じなのね。
少しの落ち込みと、発見の驚きが混ざっていた。

平日にしたかった夢を達成することができた。
理想とは違ったけど
やろうと思った瞬間に行動できる状況に今私はいる。
平日同じ所でずっと働いていた私が、知らなかった世界を見れた。
行こうと思った時に、出かけられる。

理想と違うこともある。
ただ、違いを発見して、体験できることが
今の一番のしあわせだ。

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