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世界樹リプレイ日記(第六階層③)

※本記事には世界樹の迷宮クリア後の要素を含みます。

(↓前回の話)


B30F(火竜・雷竜戦)

氷嵐の支配者を下した君たちは破竹の勢いで残りの2体の竜を撃退していった。…と、一言で纏められれば聞こえは良かったのだが、そう簡単にはいかなかった。特に、火竜。相性が悪かったのか、君たちの戦術が拙かったのか。いずれにせよあの偉大なる赤竜に、君たちは多大なる苦戦を強いられた。

戦闘方針は氷竜戦と基本的には変わらない。ブレス攻撃はルゥの歌で防ぎ、敵の部位を封じ、戦力を削いでいく。だが、氷竜と違い、火竜は部位を封じられると攻撃がより苛烈になった。頭を封じれば暴れ回り巨大な尻尾で君たちを薙ぎ払った。ならばと脚を封じれば猛然と襲い掛かり君たちを押し潰しに来た。

極めつけは、火竜から放たれるとどろく咆哮だった。それを聴くと君たちはたちまち全身の力が抜け武器を握る手が弱まった。それだけではなく、更に凶悪なことに、君たちは前後不覚に陥り、しばしば混乱状態に陥った。君たちはシリカ商店で状態異常耐性を高める毒手とべっ甲の二連指輪を買い揃えた。

この装備により、混乱に対しては若干の軽減効果はあったものの、それでも完全に防ぐというわけにはいかなかった。また、攻撃力低下の効果は全く防げなかった。君たちは長期戦を覚悟した。火竜の激しい攻撃を耐え忍びながら、少しずつ相手の体力を削っていくことにした。この戦術の要は、ルゥにあった。

ルゥが限界を超えれば、あのブレス攻撃にすら耐える守りが可能となる。なら、もっともっと限界を超えてもらおう。それが君たちの作戦だった。アクセラⅢ。水晶花から抽出したこの香水は、人の潜在能力を引き出す効果があった。ルゥは連続で使い、力の限り歌った。これ副作用ないよね?と心配しながら。

蛮族の行進曲と癒しの子守唄。ルゥの歌は君たちを打たれ強くし、受けた傷はたちまちのうちに塞がった。だが、それでも火竜の攻撃は苛烈で、君たちはしばしば地面に倒れた。矢継ぎ早に繰り出される猛攻を耐え忍ぶには、ルゥの歌だけでなくソーマも重ねて使わなければ、傷の回復は到底間に合わなかった。

攻撃が苛烈になるとわかっていても部位封じを狙っていたのは、敵の攻撃手段を限定させる目的があった。次に何をして来るかわからないよりは、相手の攻撃を予測出来た方がまだ与し易しと判断した。君たちは腕と脚を優先的に狙った。とどろく咆哮やブレスよりも、その膂力が脅威だと、そう思っていた。

やがて前衛のアサギとトルテが倒れた。レンリがすぐにアサギを助け起こしたが、直後、火竜は凄まじい勢いで尻尾を振り回し、シトラとルゥが吹っ飛ばされた。残るは負傷した2名。すわおしまいか、と思った時、天空より矢が飛来した。痛烈な一撃を受けた火竜は意識を失った。運が君たちを味方していた。

体勢を立て直す。しかし、一度倒れるとルゥの歌の効果は切れてしまう。また元のように戻すには時間が必要だった。それを火竜が大人しく待っている筈もない。容赦無く灼熱の息吹が放たれる。火幕の幻想曲は奏でていない。今度こそおしまいか、と思いきや、トルテを除いた4人はこれを回避した。

続く火竜の激震もシトラを除く全員が回避した。寸前のトリックステップが功を奏していたらしい。とはいえ、ここまで効果を発揮することは滅多にない。戦いに流れというものがあるのならそれは急速に君たちの方に傾いていた。時間は稼いだ。殆ど崩壊していた状態から、体勢を立ち直しつつあった。

あとは再び火幕の幻想曲を歌うだけ。そう思っていた時、火竜の咆哮でルゥが混乱に陥った。君たちは肝が冷えた。トルテが火竜の脚を封じる。この状態の火竜は強襲してくる傾向が多いが確実かはわからない。もしも次にファイアブレスが放たれたらひとたまりもなかった。ここにきてまた運頼みとなった。

そして、やはりこの戦いでは君たちに運が向いていた。火竜がファイアブレスを放つことはなく、トルテは凶刃に倒れたが、ルゥは混乱から脱した。またしても咆哮する火竜。『――いい加減、しつっこい!』シトラの大氷嵐の術式が炸裂した。降り注ぐ氷槍の雨に貫かれ、偉大なる赤竜の断末魔が森中に響いた。

火竜との戦いは概ねこのような顛末だった。不細工ではあったが、ともかく勝った。運も実力のうち。君たちは街へ帰り、祝杯を挙げた。なお、君たちを苦しめた「とどろく咆哮」は、ルゥの「猛き戦いの舞曲」で無効化出来たのだが、それを知るのは、これから更に随分と後のことだったと言う。

一方、雷竜との戦いは比較的楽に終わった。討伐に要した時間で言えば、火竜の半分もかからなかった。雷竜の遠吠えにはルゥの歌を掻き消してしまう効果があり、厄介ではあったが、歌合戦が出来るとルゥはかえって喜んだ。遠吠えは歌じゃないだろと君たちは思った。

部位封じも心なしか効きやすかった。火竜にはなかなか通用しなかった鞭が、雷竜にはよく効き、トルテは何度かエクスタシーを放った。雷竜とルゥが歌合戦(?)をしている間、君たちは着実に攻め、これを撃破した。
―――そして、三竜を全て倒した君たちはついに、本当の迷宮の最深部に辿り着いたのだった。

B30F(「敵」)

赤く不気味な迷宮の奥の奥で、君たちは「それ」と出逢った。迷宮を踏破した君たちですら今までに見たことがない程におぞましく、冒涜的な姿をした「それ」は、圧倒的な存在感で君たちの前に立ち塞がった。全身が粟立った。この生物は危険だと、肉体が悲鳴を上げ、警鐘を鳴らしていた。

そして君たちは全滅した。恐ろしさに竦みそうな全身を奮い立たせ、何度も挑んだが、刃が立たなかった。三竜を一度に、同時に相手にしているかの様だった。勝てるイメージが湧かなかった。――それでも、倒さなければ。君たちは強迫観念にも似た強い使命感を覚えた。君たちは膝に力を込め、立ち上がった。

このままでは勝てないと思った君たちは、一時退却し、道具と装備を揃えることにした。三竜全ての逆鱗を集めれば、凄まじい性能を誇る武器を作る事ができる。雷竜から手に入れた逆鱗を商店に持ち込んだ時、君たちはその存在を知っていた。人の能力の限界を引き上げる両手剣。その名を真竜の剣と言った。

これを手に入れるべく、君たちはあれ程苦労した竜退治を幾度も繰り返した。ただでさえ倒すことが困難な三竜を相手にし、更に希少な逆鱗を手に入れることは並大抵のことではなかったが、ともあれ、君たちはこれを集めきった。その数、実に三振り分。ルゥ、トルテ、シトラの3人は真竜の剣を装備した。

真竜の剣は両手剣でありながら非力なアルケミストも持つことが出来た。今まで杖しか持ったことがなかったシトラは目に見えてテンションが上がっていた。ルゥも同様だった。伝説の竜、その逆鱗をもって鍛え上げられた剣を手にして、瞳をきらきらと輝かせた。憧れていた冒険譚の最先端に、君たちはいた。

なお、トルテはこれを機に鞭を手放し、再び剣術を学び直した。アサギにも出来れば装備して欲しいところだったが、刀とは剣と似て非なるものらしい。刀でなければ私の技は出せないと、アサギはきっぱりと固辞した。それに、死地に赴くなら使い慣れた得物が良いと。八葉七福。アサギの愛刀だった。

真竜の剣の他に欲しかったのが、世界樹の指輪だった。世界樹の中葉から作られるこれは持ち手の体力、攻撃力、耐久力を上昇させる効果があった。君たちはこれを5人分用意した。相当な時間がかかった。必要な数を集めるためには、第四階層にいる世界樹の双葉を倒し、その復活を待たねばならなかった。

必要なのは素材だけではない。金だ。その巨額をかき集めるため、君たちは第六階層にいる三竜クローンの退治も併せて行った。この魔物からは「竜の玉礎」が手に入り、高値で売れた。また、これは味方全員の傷を完治させるソーマプライムの原料にもなった。君たちはこれも大量に用意するつもりだった。

逆鱗、世界樹の双葉、竜の玉礎、そして、金。必要なものを集め、道具と装備を整えた頃、君たちがあの怪物と初めて対峙してからおよそ一年の月日が経過していた。そうした日々の中で、ルゥはいつしか子守唄の歌い方を忘れていた。あの怪物との戦いに子守唄は不要だった。必要なものは、覚悟だけだった。

君たちはお揃いの装備を身に着けた。世界樹のコート、世界樹の指輪、トリトス。これで勝てるかはわからない。それでも、ベストは尽くした。アイテムも持ち物がパンパンになるほど用意した。覚悟はとうに出来ている。決意は既に固まっている。――行こう。君たちは鬨の声を上げ、第六階層へと向かった。

B30F(フォレスト・セル戦)

そして、君たちはあのおぞましく名状しがたい生物と対峙した。万全を期して挑んだ君たちだったが、それでも敵の命には届かなかった。だが、諦めることはない。危機と困難は乗り越えるためにある。勝てないなら、勝てるまで挑み続けるのみ。それが、これまでの旅路で得た君たちの答えだった。

何度も挑み、傷付き、立ち上がり、剣を交わしているうちに、君たちは敵の行動に一定の法則がある事に気付き始めた。また、うまく立ち回れば特定の行動を誘発出来ることにも。戦闘は一手先の読み合い。相手の行動を予期出来れば大きなアドバンテージとなる。途方も無い闇の中、君たちは一筋の光を見た。

攻略の骨子が固まり、君たちはそれを組み上げていった。諦めない心があれば、いつか倒せると、そう信じていた。何より、あの怪物の存在を知りながら無視することは出来なかった。あれは存在してはならない生物だと、君たちは直感していた。そして、その時は来た。正真正銘、最終決戦の幕が上がった。

一手目。敵は必ず炎属性の全体攻撃を繰り出した。爆発が、破壊と衝撃を伴った灼熱が、君たちを呑み込む。寸前、レンリがアザーズステップを踏み、ルゥが火幕の幻想曲を歌っていた。その動きに淀みはない。三竜戦の時に確立した連携は戦いの中でより洗練されていた。君たちは軽い火傷を負うに留まった。

二手目。巨大な触腕がアサギを薙ぎ払う。敵の攻撃と同時に、トルテの剣が光った。読んでいた。シトラも、アサギが負傷する前から走り寄り、すぐさま手当を施していた。ルゥが猛き戦いの舞曲を歌う。君たちに力が漲っていく。長期戦はこちらに不利。ならばと、君たちは最大限の火力で攻める姿勢だった。

三手目。アサギ、レンリ、シトラが覚醒《ブースト》。竜巻のような斬撃、苛烈な弓撃、煉獄の如き術式を繰り出した。手応えあり。だが、敵は微動だにしなかった。打たれ強いとかそういうレベルではない。この敵は何か、他の生物とは次元が異なる気がした。生命の力そのものを相手にしているようだった。

沈黙を保っていた峰の如き巨体から、金色の波動がほとばしった。圧倒的な存在感《プレッシャー》。大気が震える。地面が揺れる。まさに王の威厳、王の威光。その冒涜的なまでの波動は、君たちの身体に宿っていた加護を掻き消した。――だが、これも予期していた。むしろ、これこそが君たちの狙いだった。

敵は君たちの身体に加護が宿ると見るや、必ず打ち消しに来た。ならば、それを逆手に取り、誘発すればいい。君たちはそこに勝機を見出した。常人なら正気を失いかねない波動でも、重く激しい打撃を喰らうより遥かにましだった。雷竜戦の応用だった。自分の歌を掻き消されても、ルゥはへこたれなかった。

四手目。敵の全身から、無数の粒子が噴出された。太古の呪粉。それは空間に大きく広がり、君たちを覆い包んだ。呪粉を吸ってしまったルゥの身体が麻痺し、シトラが眠りに落ちた。だが、それも読んでいる。あらかじめ用意していたトルテが瞬時にテリアカβを周囲に撒き散らし、ルゥとシトラは回復した。

ここまでは順調だった。君たちの思惑通りに事は進んだ。問題は、次の五手目から七手目までだった。ここから、敵は矢継ぎ早に属性攻撃を繰り出してくる。行動を誤れば即死に繋がる。極度の緊張で汗が噴き出した。大丈夫。作戦通りにすればきっとうまくいく。君たちは目を合わせ、頷き合った。

五手目。雷の嵐が君たちを襲った。激しい雷撃。まともに喰らえば、肌は灼け、肉を焦がし、骨を砕く程の。しかし、それはルゥの雷幕の幻想曲で防がれた。四手目において、呪粉を吸い麻痺する前のルゥが予め歌っていた。続く攻撃に備えるべく、ルゥはアクセラⅢを使用し、目を閉じ、精神を研ぎ澄ませた。

六手目。レンリとルゥが連携し、火幕の幻想曲を歌う。直後、敵が大爆発を引き起こした。爆風が君たちの身体を舐める。軽症。一手目をなぞるような攻防だった。しかし、如何にルゥの歌で防いでいるとはいえ、度重なる攻撃でダメージは蓄積していた。シトラはソーマプライムを使用し、君たちを治癒した。

シトラがこのタイミングでソーマプライムを使用したのは、次の手に備えてのことでもあった。七手目において、敵は氷属性の全体攻撃を仕掛けてくる。だが、ルゥが限界を超えて歌うにはインターバルが必要だった。つまり、次の全体攻撃、君たちはルゥの歌無しに耐え凌がなければならなかった。

敵の氷属性全体攻撃【フリージング】を防ぐ対策は既に立てている。君たちが装備している世界樹のコートとトリトスがまずそれだ。次に、五手目においてシトラはあらかじめ絶耐ミストを撒いていた。あとは、七手目で対氷ミストを使用し、更に防御で身を固めるつもりだった。君たちは覚悟を決めた。

七手目。レンリとトルテが連携し、敵よりも早く動き対氷ミストを使用した。ルゥとシトラは防御で身を固めている。歯を食い縛り、敵の攻撃を待つ。――その時、天空より矢が飛来した。凄まじい勢いで飛来した矢は敵を穿ち、衝撃を与え、一時行動不能にした。恐れていた攻撃が繰り出されることはなかった。

風向きが変わった、と君たちは思った。これまで強敵と対峙してきた時に何度も味わってきた感覚。即ち、必勝の感覚。敵は未だ健在。なれど、運を味方にした自分達は誰よりも強いと、君たちは自負していた。いける!勝てるよ!ルゥが皆を鼓舞する。士気は充分。君たちの瞳は輝き、力強さをたたえていた。

次に敵が何をしてくるか、どうすればこちらの狙い通りに敵が動くか。わかってしまえばこれほど御しやすい相手もいなかった。八手目から十四手目まで、敵は王の威厳と属性全体攻撃を繰り返した。そう仕向けた。敵に合わせるように、ルゥはアクセラⅢを使って幻想曲を歌い、シトラは絶耐ミストを撒いた。

十五手目。ここが勝負の分かれ目だった。何度戦っても、このタイミングでの敵の行動だけは読めなかった。だが、今日の君たちは運を味方に付けている。そうなれば無敵だ。レンリとルゥが連携し、火幕の幻想曲を歌った。直後、敵から繰り出されたのは、何度も見た炎属性全体攻撃、エクスプロウドだった。

君たちは賭けに勝った。この先の行動も既に読んでいる。十六手目は続けてエクスプロウドを放ち、十七手目はサンダーストームを放ってきた。いずれも、ルゥの奏でる歌で被害は最小限に留まった。気付けば、敵は既に満身創痍だった。敵に攻められながら、君たちも果敢に攻めていた。終局が近付いていた。

天空より飛来したサジタリウスの矢、それが合図だった。皆の気持ちは一つだった。『ここで、終わらせる!』ルゥが猛き戦いの舞曲を奏でる。君たちの身体に力が漲っていく。高揚したトルテが疾風のように駆け、真竜の剣を深々と突き刺す。覚醒したレンリはぎりりと弓を強く引き絞り、三本の矢を放った。

レンリの矢は敵を貫き、大きな風穴を開けた。それと同時に、上段に構えたアサギが肉薄する。敵がアサギの姿を捉えた瞬間、既に刀は振り下ろされていた。刹那に三度の剣閃、ツバメ返し。音速の斬撃は敵の頭蓋を斬り飛ばした。甲高く、鈍く、濁った音が鳴り響く。――おぞましき怪物の最期の断末魔だった。

巨体が崩れ落ちる。ある種の神々しさすらあった、生命力に満ちた姿はもはや見る影もない。君たちはやり遂げた。あの恐るべき怪物を、遂に撃破したのだ!君たちは歓声を上げた。手を叩き、抱擁し、考え得る喜びの表現を身体で表した。君たちは、今度こそ本当に、完全に、この迷宮を踏破したのだった。

ルゥは感極まってわあわあと泣き出した。それに釣られて皆泣いた。瞳から涙がとめどなく溢れた。それはきっと喜びだけの涙ではなかった。迷宮の終わり。それは、この冒険の終わりも意味していた。皆言葉には出さないが、気持ちは同じだった。『寂しいよー!』いや、ルゥだけは思い切り口に出していた。

そういうのはまだ早いでしょとシトラが諌め、泣きじゃくるルゥをトルテが背負い、君たちは街に帰還した。迷宮を踏破したら、このギルドは解散する。第五階層で迷宮の主を撃破した後、君たちはそう決めていた。帰路につきながら、君たちはその時のことを思い出していた。別れを決断したその日のことを。

→(第五階層へと続く)


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