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世界樹リプレイ日記(第六階層①)

※本記事には世界樹の迷宮クリア後の要素を含みます。

(↓前回の話)


B26F(はじめての引退)

 君たちは悩んでいた。第五階層を踏破し、更なる深淵への扉を開いた君たちだったが、自らの成長に限界を感じていた。以前のように身体能力が向上することも、新たな技を編み出すことも無くなった。にも関わらず第六階層の魔物は強大で、先を進むのであれば戦力の増強が望ましいところだった。

 「引退」という制度がある。冒険者が冒険から足を洗い、後継者に引き継ぐ制度の事だ。引退する事情は様々だが、熟練の冒険者からその知恵と経験を伝授された後継者は、より強い冒険者に育つという。冒険者の歩んだ道はそうやって次の世代へと、連綿と引き継がれていくのだ。その命が途絶えるまでは。
 この制度には裏技があった。後継者を自分自身にすること、即ち強力な自己暗示である。自らの能力に限界を感じて尚冒険をやめられない真性の冒険中毒者が使う最後の手段。君たちはそれを検討していた。冒険の悦びとは、未知に触れ新しい道を切り拓くことの他に自らの成長にある。そう思っていた。
 とはいえ、一度に全員が引退してしまえば第六階層の探索はままならなくなってしまう。君たちは、まずはレンリに試してもらうことに決めた。レンリを選んだのは、採集スキルを覚え直してもらう狙いがあった。強敵を相手にするには、より良い装備と薬を買い揃える必要があり、その為には金が必要だった。
 採集スキルを覚え直すだけなら「休養」という選択肢もあったが、採集するのは資金に余裕が出来るまでだ。いずれまた休養してスキルを覚え直すなら、どうせならばと引退を決断した。幸い、B26Fには高額素材が調達出来る採集ポイントがあった。君たちは第六階層の攻略と採集を同時に進めるつもりだった。
 君たちは冒険者ギルドで所定の手続きを済ませた。これからすぐに処置を施すらしい。君たちはレンリを残し、外で待つことにした。去り際のレンリは、病院に預けられ飼い主から離された時の去勢手術直前の猫のような表情を浮かべていた。グッドラック、と君たちは親指を上に立て見送るのだった。
 建物の外で待つこと、しばし。目をぐるぐると回したレンリが、ふらふらとした足取りで現れた。その佇まいはまさに新人冒険者のそれだ。身体から覇気という物が完全に消失していた。シトラが試しにレンリの額を指で弾いてみると、パコン!と小気味いい音を立てて物凄い勢いで後方に吹っ飛んでいった。

 そんなこんなで、君たちはひ弱になってしまったレンリと共に第六階層の探索を再開した。なお、不思議なことに、これまでの冒険の記憶はあるようだった。道中、レンリはシトラに何度も仕返しを試みたが、その度に片手で制され、逆に羽交い締めにされたり首根っこを掴まれぽいと投げられたりした。

 そうしてじゃれ合いながら先を進んでいたから、という訳では無いが、B26Fの探索は遅々として進まなかった。まるで人の侵入を拒むかのように気付けば入口付近まで戻されているのだ。戻される場所がちょうど採集ポイントである為、君たちはその度に素材で持ち物を一杯にして帰り、宿で休む毎日を送った。

 少し進んでは入口付近まで飛ばされ、素材を採集しては店に売り、宿に泊まる。そうした日々の甲斐あって、以前は買えなかった高価な装備も徐々に揃い始めた。採集を覚えたレンリのおかげだ。君たちはレンリを大いに褒めてやった。尤も、当の本人は以前のように身体が動かせず不満げな様子ではあったが。 

 「引退」したレンリは、流石にすぐに元通りとは行かなかったが、地道な日々の繰り返しの中でアザーズステップを覚え直し、再びシトラと連携が取れるようになっていた。即ち、戦闘開始直後の全体攻撃術式である。君たちはこれを駆使して先を進み、やっとのことでB27Fに下りる階段を見つけたのだった。

B27〜B28F(無間地獄編)

 苦労してB26Fを突破した君たちを待っていたのは、また地獄だった。B27Fは落とし穴だらけで、忌まわしい事に、落ちた先は鋭利な棘の生えた植物が鬱蒼と生い茂っており、君たちに傷が絶える事はなかった。君たちは何度も何度も落とし穴にはまっては、肌を裂く感触に眉をしかめながら地図を埋めていった。
 F.O.Eの通り道を歩けば安全である事には、さしもの君たちも気付いていた。だが、君たちは如何なる時も自らの足で踏み抜いて確かめる事に拘りがあった。『真実を宿す地図は、その身を厭わぬ覚悟が作り出す』。迷宮を踏破し調子に乗っていた君たちは、自らの格言としてこれを流行らせようとしていた。
 落ちた回数が三十を超えた頃、君たちはその格言を撤回しようと思い始めた。挙句の果てに誰がそれを言い始めたのかで喧嘩しだした。どうせシトラでしょ!案を出したのはアサギだよ。言い出しっぺはルゥだった筈だ!直したのはトルテだよ!あーだのこーだの。君たちの騒ぎ声は度々魔物を呼び寄せていた。
 不毛な言い争いを続け、落とし穴に落ちること幾星霜。もはや何回落ちたのか数えるのもやめた頃、君たちはようやく闇雲に歩くことをやめ、F.O.E.の後をこっそりとついていくことにした。どすんどすんと地面を揺らしながら歩く巨大なカメ。気付かれないよう、その後ろを慎重についていった。

 それでも急に振り返ってくるものだからやむを得ず撃退し、結果安全な道がわからなくなり、また落ちた。それでも不屈の精神で進み続け、…ようやく、下へと続く階段を発見した。地図は虫食い状態。君たちは、『地図は正確じゃなくてもいい。先に進めればそれでいい』を自分たちの格言にしようと思うのだった…。

(→第六階層②へ続く)


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