M.ハイデッガー 『存在と時間』(細谷貞雄訳) 上 筑摩書房、1994 第3節、第4節概要

第三節 存在問題の存在論的優位 
    
・前節で問いの形式的構造から存在への問いの性格を明らかにした結果、問いが特有なもので、その解決には一連の基本的考察が必要の必要性が判明した。
・問いの動機、意図、機能を見渡すことで存在への問いの格別さがわかる。
存在への問いを反復する必然性は、まずその問いの由緒正しさ(古さ?普遍性?)に始まり、その答えの曖昧さと十分な問題設定が行えていないことに動機づけられる。
・存在への問いはもっとも普遍的な普遍性についての形而上学的考察に留まるのか。
そもそも形而上学的世界に収まる思弁なのか。それとももっとも原理的かつもっとも具体的な問いなのか。

1. 存在とは、常にある存在者(人に代表される)の存在である。すべての存在者は、そのさまざまな境域に応じて、一定の事象領域の開拓と画定の分野となり得る。
・境域(Bezirk)巻末訳注参照
存在者の一切(Das All des Seinden)=様々な存在領域(Seinsbezirke)[e.g.自然,空間,歴史]
                 ↓                   ↓
                基礎概念                 ↓
                 ↓                   ↓
                さまざまな事象領域(Sachgebiete) (学問的研究分野)

・それぞれの事象領域は自然や空間や歴史など、学問的研究(領域の開発とその最初の画定)において主題とされる。
それぞれの領域の基本的諸構造を明らかにする仕事は、すでに前=学問的経験や解釈によって果たされている。(僕らが存在について考えるとき、僕らが存在について知っていること)=「基礎概念」
これが対象領域の最初の具体的開示の糸口となる。
・科学的研究の重点は常に上記のような実証性にある。本当の進歩は実証的研究結の集積ではなく、領域の根本構成への問いの中にある。(知識の集積によって「基礎概念」とされる領域が拡大、刷新されれば、問いは洗練されていく。)


2.諸科学に本当の「動き」とは、基礎概念の改定作業の中にある。
・一学問の水準は、それらの基礎概念がどれほど深い危機に際会することができるかによって決定される。基礎概念の危機との際会は実証的研究の立場で問いかけられる事象そのもの(本書における存在)に接する関係を動揺させる。
・もっとも厳密で堅牢な科学である数学をはじめその他の科学で、上記のような「基礎論の危機」が散見される。
・基礎概念とは諸科学のあらゆる主題対象の事象領域についての諸規定である。実証的諸科学に先だって先験的事象論理学を行うことによってこの正しさを証明することができる。→このような問題設定を存在論という。
・存在論的に(on-tlogisch)問うことは実証科学のような存在的(ontisch)問いに比べいっそう根源的である。とはいえ、われわれは特定の存在者の存在を問う時に、存在一般の意味を究明すること、即ち「《存在》という語を用いてわれわれが本当に何をいおうとしているのか」ということについて確認しておく必要がある。
・第一に重要なのは存在の意味を明確にし、これを解明することがおのれの基本的課題であることを自覚していることである。これを欠かせばおのれの本来の意図に背くことになる。
・この節では存在問題の事象的、学問的優位について述べたが、存在問題の優位性はこれだけではない。


第四節.存在問題の存在論的優位

1.学問は真なる命題の論証連関の全体として規定される。
・現存在(人間)はほかの存在にくらべて抜きんでた格別の性格を備えている。現存在(人間)はほかの存在者とは同列ではない。 
→何らかの様式と明確度において自己を了解している。ここが他の存在と異なる。
⇒すなわち、現存在は存在論的に存在しており、これが現存在の存在的種別性である。
2. 現存在が、いつもその時々の仕方によって関わる存在自身が実存(Existenz)である。
・現存在の本質は、その都度その存在をおのれの存在として規定しなければならないところにある。
・実存は、いつも、自ら実存することによってのみ決定される。
→このとき実存を主導する自己了解は実存的である。
・現存在の実存論的理解、分析は予め現存在の存在的構造の中に設けられている。
→そして、現存在の実存性の中には存在一般の理念が含まれており、すなわち現存在の分析を遂行することは存在の意味への問いに関わってくる。

3. 現存在に本質的に属するのは世界の内に存在するという事である。
→したがって、現存在の存在了解は、同根源的に「世界」と、世界の内で接し得る存在者の存在の了解とにかかわる。
 ⇒したがって、現存在でない存在者を主題にする存在論(諸学問など)は、現存在の存在的な構造に基礎づけられている。すなわち、基礎存在論は現存在に実存論的分析論の内に求められなければならない。
・上記より、現存在(人間)は他の存在者に対して3つの優位を得ていることが分かる。

ⅰ.実存によって規定されているという優位
ⅱ.ⅰより、現存在はそれ自身「存在論的」であるという存在論的優位
ⅲ.存在論のための存在的=存在論的な可能条件が備わっているという優位

ⅰ,ⅱ,ⅲより、現存在こそ第一に存在論的問いの対象となるべきである。
・現存在の存在的・存在論的優位は、古代よりパルメニデス、アリストテレス、トマス・アクィナスらによって既に見抜かれていたが、決して現存在自身が存在論的行動によって把握されていたわけではなかった。
・現存在の存在論的分析論が基礎存在論を形作っているのであり、そこでは現存在こそが先行して自身の存在へと問われるべき存在者として機能している。
・同時に、現存在の本質的な存在傾向である前=存在論的な存在了解が開発される。

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