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「落陽」

「落陽」     

 その年は、県内で活動しているボーイスカウトが一堂に会し、県北にある男体山に登るという企画があった。それは、五百人以上のスカウトが隊列を組んで、賑やかにひたすら登るというものだった。数時間たち、あるなだらかな休憩地点にたどり着いた。あるリーダーが、付き添いで来ている小さな子供たちのために、スカウトソングを歌った。

 その時、年長のシニア隊員が、さっとみんなの前に出てきて自発的に音頭をとるということがあった。シニア隊員とは高校生くらいの年齢のスカウトを指す言葉である。シニア隊員は、さあ、みんなで「もみじ」を歌おう。大きな声でそう声を掛けた。そういいながら、指揮の構えができた。あ~きの夕陽に照るやまもみじ~。と自ら歌ってリードする。だんだんと参加者が増えて、最初は小さかった声が大きな声になっていった。

 小さな声でも五百人の声が集まると、なかなか迫力のある風景になった。秋の山は天気に恵まれて穏やかだ。紅葉も十一月ともなれば少しの風でもはらはらと落ちてきていた。小さな子供たちは、ビーバー隊というのだが、その落ちてくる葉に駆け寄ってきて、争って手のひらに乗せようとしていた。夕陽が山の端に差し掛かかってきた。降り注ぐ黄金色の葉っぱ集めに力尽きたころ、その子供たちの動きもようやく止まった。赤い夕陽は随分と大きく見えた。

 ボーイスカウト活動は、各団のリーダーの資質によるものが大きい。残念ながら数年後には多くのスカウトが退団した。子供の手前、理由は明らかにしていないが、大人の都合というものだった。数少なくなったスカウトたちも最後まで頑張ったが、その後にとうとう団ごと消滅したということを人づてに知った。

 団体行動で子供たちが身につけることは多い。ボーイスカウトに席を置いたことは覚えていても、あの日男体山で見た「落陽」の記憶は、だんだん薄れていってしまうのだろうかとも思う事である。

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