テラクレス奮闘記
「波長」 私は電車の中で不思議な人に会ったことがある。もうずいぶん前のことだが、記憶は鮮明だ。 結婚して一か月ぐらいの頃だった。私はまだ二十八で、ひどく酔っていた。そして、降りるべき駅はとうに過ぎていた。夜遅くその車両には、私を含めて四人しかいなかった。・・・・・・ ガタンと揺れたのを機に目が覚めた。電車は、見知らぬ暗闇を走り続けていた。ざっと見回したところ、ほかの客は起きていないようだ。 四人か。これは、よにん、であり、しにんではない。死人・・・いやな数だねえ・・。
「落陽」 その年は、県内で活動しているボーイスカウトが一堂に会し、県北にある男体山に登るという企画があった。それは、五百人以上のスカウトが隊列を組んで、賑やかにひたすら登るというものだった。数時間たち、あるなだらかな休憩地点にたどり着いた。あるリーダーが、付き添いで来ている小さな子供たちのために、スカウトソングを歌った。 その時、年長のシニア隊員が、さっとみんなの前に出てきて自発的に音頭をとるということがあった。シニア隊員とは高校生くらいの年齢のスカウトを指
短編「そらみみ」 雪が降る予報がでていた。ストーブに給油して置かなければ。灯油タンクを取り出した。花冷えの庭先を通り灯油のドラム缶が置いてある物置に向かう。ドラム缶に差し込んである特大の手動のサイフォンからコポコポという液体が流れ込む音が聞こえだした。 あ、何かの電子音が鳴っているようだった。ピピピとも聞こえるから何かの警報かもしれない。キョロキョロと見える限りの外を見まわしてみるが異常は無いようだ。それとも、老化で聞こえるようになる音というのもあるのだろうか。そ
ろっぱ紀行 山中湖編 ①2023.09.5.6.7 まだ真夏並みの気温の中、六十八才の女三人組は山中湖方面への旅行へと向かった。山中湖村という地名、富士山というナンバー。その命名に、日本一の霊峰を抱えている地元民の意思を感じる。車好きの彼女を、レクサス夫人とでも呼ぼうか。常磐道、首都高、中央道の往復600キロを一人で運転した。もう一人の友人と私は圧倒されつつも、三日間の道中をひたすらおしゃべり担当で過ごした。 折角、山梨まで来たのだから、ほうとううどんでも食べて行こ