オスマン朝政治思想:タシュキョプリザーデの政治倫理

アフメド・タシュキョプリザーデ(1561年没)

オスマン朝に活躍したイスラーム学者。高名なウラマーの家系に生まれマドラサの教授職や裁判官を歴任。多数の著作を残しているが、オスマン朝のウラマー・スーフィーの伝記集と当時の学問の百科全書が特に有名。

人間の代理人性と倫理的統治の神秘 タシュキョプリザーデ


至高なるアッラー曰く、「かれこそは,お前たちを地上の代理人とされた方である。誰にしても信じない者は,その不信心で自分自身を損う」(クルアーン35章39節)

またアブー・フライラが伝えるハディースより、預言者ムハンマド曰く「あなた達は羊飼いであり、各々の家畜を守る責任がある。」


 以下のことを知りなさい。人間はこの世の存在するあらゆる被造物の写しである。従ってスーフィーの哲学者達は人間を小宇宙(ミクロコスモス)と呼んだのである。人間の中には天使、ジン、獣、鳥に至るまで大宇宙(マクロコスモス)におけるあらゆるものが存在する。大地や諸天、あるいは玉座でさえも抱えることのできない多くのものを人間の心は抱えることができるのである。「我が大地も我が諸天も我を包み込むことはないが、清らかで信仰深い信仰者の心は我を包み込む」とのアッラーの聖ハディースを預言者ムハンマドが伝えている通りである。本書の目的は、人間的精神の統治はいかにあるべきか、個々の人間の身体において精神はいかに管理されるべきかを明らかにすることである。なぜなら本書のような概論ではその神秘について詳細に触れることは不可能だからだ。


 以下のことを知りなさい。現実の政治統治において大臣や代理人、書記官、官僚、法官などが必要とされるように、精神的統治も同様である。その精神の「国家」を管理し、敵の攻撃によって破壊されないように精神の統治の様々な状態を理解することが求められる。


 以下のことを知りなさい。人間の霊魂は神的神秘のうちのひとつであり、アッラーは人間の身体の中に御休息の場を置いた。スーフィーの言葉によれば、その場所とは心である。しかし、霊魂は物理的に心に場所を取るわけではない。霊魂が関わる最初のものが心なのだ。預言者ムハンマド曰く「まことにアッラーはあなた方の外見や行為を見ているのではなく、あなた方の心のあり方を見ているのだ。」なぜならカリフを見るものは、カリフが座す場所を見ているからだ。

 この「心」は生物が持つ松毬の形をした心臓を指しているのではない。ここでの「心」とは、ムルク界とマラクート界の神秘を統合し、霊魂と理性的魂が交わることにより生まれる幽玄界と現象界についての情報を知らせる精妙なものを指している。この精妙なる心が聖なる霊魂に向いたときには霊的光と神的神秘によって光り輝き、四肢や五臓六腑のあらゆる動きを正す。しかし精妙なる心が動物的情動、欲望に向いたときには、心が管理する身体も含め腐敗したものとなる。預言者ムハンマド曰く「まことに人間の体にはそれが健全であれば体全体が健全であり、それが腐敗すれば体全体が腐敗する肉塊がある。実にそれは心臓である。」(続く)

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