【レポート】重曹クエン酸水についての考察その1
重曹クエン酸水についての考察 その1(重曹について)
1.重曹クエン酸は万能薬なのか
最近(といってももう随分前からになりますが)重曹+クエン酸水というものが健康に善いと話題です。とは言え重曹の善さ、クエン酸の善さについて実は科学的に説明しているものは極めて少なく、「実際に飲んだら体調が良くなった」という事例紹介がほとんどです。中には「ガンが治る」というものまで。御塩の善さもそうですが、私たちはできるだけ科学的に説明できることをお話しようと考えています。もちろん科学がすべてではないことは承知の上ですが、可能な限りわかりやすく考えてみたいと思うのです。
重曹クエン酸は万能薬と言えるのか。まずは酸性アルカリ性という話からお付き合いください。
2.酸塩基平衡(恒常性)
「人間の身体は弱アルカリ性である」というのは皆さんお聞きになったことがあると思います。この酸性・アルカリ性ですが、このおさらいからしておきましょう。pHというのを皆さん理科で聞いたことがあると思います。ある程度の年代以上の方はペーハー、若い方はピーエイチと習ったのではないでしょうか。pHとは一般に水素イオン指数といわれるもので、定義は1リットルの水溶液中の水素イオンのモル濃度の逆数の対数にほぼ等しいというものです。
pH=−log10[H+]
ですから、比較的薄い(これも微妙な表現ですが)水溶液においては、pHは1から14まで、pH1は水素イオンが0.1モル/リットルで強い酸性、pHが1増えるごとに水素イオン濃度が1/10となり、pH7を中性、以降アルカリ性が強くなっていき14まであると思って頂ければいいと思います。
そして人の血液中でpHに大きな影響を及ぼすのは二酸化炭素(CO2)と重炭酸イオン(HCO3⁻)です。二酸化炭素は主に肺でやりとりされ、重炭酸イオンは主に腎臓でやりとりされます。二酸化炭素が増加したり重炭酸イオンが減少したりするとpHは酸性に傾き、反対に二酸化炭素が減少したり重炭酸イオンが増加したりするとpHはアルカリ性に傾くというわけです。
とはいえ、この酸性アルカリ性のバランス(酸塩基平衡)は肺と腎臓で厳密に調整されており、健康な身体ではpH7.4を中心に±0.05以内です。肺と腎臓が正常に働けば、「酸性のものを食べたら身体が酸性に、アルカリ性のものを食べたら身体がアルカリ性に」などという単純な話ではないことがおわかり頂けると思います。
3.重曹の効能
重曹は重炭酸曹達(じゅうたんさんそうだ)を略したもので、化学的には炭酸水素ナトリウムNaHCO3です。常温では白色の粉末で、20℃の水100mlに約9.6g溶けて、その水溶液はpH8.2ほどの弱アルカリ性です。ただし定義のところを思い出して頂きたいのですが、弱アルカリ性といっても中性より10倍以上アルカリ性としては濃いのです。
重曹を水に溶かすと、ナトリウムイオンと重炭酸イオンの状態になります。
NaHCO3→Na⁺+HCO3⁻
重炭酸イオンは水中で水酸化物イオン(OH⁻)を生じます。したがって重曹の水溶液はアルカリ性だというわけです。
HCO3⁻+H2O ⇄ H2CO3+OH⁻
さて、重曹水は弱アルカリ性ですが、これを飲んだ場合には何が起こるでしょう。
それは「中和反応」です。
人間の胃の中に分泌される胃液の主成分は塩酸(HCl)とタンパク質分解酵素と粘液と水分です。胃液のpHは1から2と強い酸性です。粘液のおかげで胃そのものが溶けてしまわないようになっていますが、胃酸が過剰に分泌されると胃壁に害が及びます。軽度だと胸やけといわれる症状ですが、進行すると胃潰瘍とか胃炎という状態になります。
重曹は胃酸を中和する即効性を持っており、胃腸薬の成分としても古くから使われているのです。
NaHCO3+HCl→NaCl+H2O+CO2↑
重曹水を飲むことで起こるのは「胃酸の中和」です。
重曹の効果効能として冒頭書いたように「万能薬」のような表現もネット上には散見されるのですが、化学的に簡単に納得できるのはこの一点だけといってもよいと思います。
最も重要な効能とされる「身体をアルカリ性にする」というのは別のメカニズムが働いていると考えられます。次回以降そのあたりを考察してみたいと思います。