彼女を見ていた②
私たちの声と言葉は辿り着く場所を知らず、風に乗って消えていく。
「昨日のラジオ聴いた?」
「聴いた。聴いた」
私は彼女を見ていた。
「治癒していく傷をさ、観察するの好き」
「ちゆ?」
「そう。これ見て」
彼女が制服のシャツを引っ張って私に見せた。おっぱいの上部に紅い島の形をした痕が広がっ ていた。親指の爪ほどの大きさにえぐれてる部分もある。
「はひ」
私は彼女を見た。
「ひひひ。火傷をね。してね。けど、だいぶ治癒してきた」
彼女は満足そうにシャツを整えると toi toi toi と胸をやさしく叩いた。
私の頭に「3」がよぎる。
彼女は手を洗うとき静かに言葉を発する。 「グレタ・ガルボ。グレタ・ガルボ。グレタ・ガルボ」と3回。
「グレース・ケリー。グレース・ケリー。グレース・ケリー」と3回。
「ローレン・バコール。ローレン・バコール。ローレン・バコール」と3回。
誰に聞かせる訳でもない。呪文のように。おまじないのように。
それが彼女のルールだから。
私は、彼女を見ていた。
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