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彼女を見ていた④


私たちの声と言葉は辿り着く場所を知らず、風に乗って消えていく。
「昨日のラジオ聴いた?」
「聴いた。聴いた」

私は彼女を見ていた。

彼女は気に入った新聞の写真を切り取って自由帳に貼っていた。
その日は白い袋状の何かにすっぽり包まれた仔猫の写真だった。
「ハリケーンが去ったあとに路地で保護されたんだって。迷い猫」
「どうして白い袋に入ってるの?」
「袋じゃないよ。靴下」
「え」
「誰かの靴下の片方を前足が外に出るように、その部分だけ1センチずつ穴を開けたって」 「ほんとだ。白いチョッキ着てるみたい」
「この靴下。洗ったやつかな」
「んー」

そんな話をしながら、私たちはいつものように購買部でパンを買っていた。私はつぶあんぱん。 彼女はチョココロネ。
彼女は前から3番目のチョココロネを取る。彼女のルール。
「ね。私、今3番目の取った?」
彼女が私に確認する。
「うん。3番目だったよ。見てた」
「ほんとに3番目?」
「うん。ほんとに3番目だよ」
「・・・ごめん。巻き込んで」
いいの。いいの。そんなのいいんだ。
「なん!たまたま見てた」
私はいつも見ていた。彼女が確認したいときに確実にちゃんと答えられるように。

私は、彼女を見ていた。

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