心からのおすすめってちゃんと相手に届くのかもしれない。
学生の頃、初めて飲食店でアルバイトをした。
大手のお菓子屋さんが経営しているカフェだったのだけど、働く側に回ってみて初めて知ったことが色々あった。
その中でも一番驚いたのは、
"本日のおすすめ = 売れ行きが悪いのでなるべく在庫をなくしたい商品"
だったことだ。
もちろん、すべてのお店がそうではないと思う。
ただ、それまで
"おすすめ = これは美味しいからおすすめ!とお店が太鼓判を押す商品"
だと純粋に信じていた私にとっては、初めて出会った価値観でとても衝撃的だった。
私はホールを担当していたので、お客様にメニューの説明をする時に本日のおすすめを紹介しなければならなかったのだけど、おすすめ商品の内情を知った上に、私自身もその商品があんまり好きな味ではなかったので、" おすすめ "という看板で紹介するのはちょっと気が引ける、と感じていたのは覚えている。
自分が心から " これ美味しいよ!!おすすめ!!!" って思えないものを人に進めるのってすごく難しいなと思う。だって気持ちが全然乗らないんだもの。
当時もとりあえずおすすめはしていたけど、やはりおすすめ商品の注文はあまりとれなかった気がする。
先日、家族で外出したついでに地元のカフェにランチに寄った。
ランチタイムにはまだだいぶ早かったようでまた出直すことにしたのだけれど、カフェのオーナーがたまたまいらして、親切にメニューの説明をしてくれた。
バラエティ豊かな日替わりランチの他に、自社の畑から収穫したバジルを使ったジェノベーゼなど、素材の良さや美味しさにこだわったメニューが用意されていて、なんとアフタヌーンティーセットまである。
私の地元は田舎なので、アフタヌーンティーセットなど小一時間かけて市街地まで出なければお目にかかれないメニューだと思っていた。
まさかこんな近場で出会えるなんて。
私がアフタヌーンティーに食いつくと、オーナーはこちらの内容も丁寧に説明してくれたのだけど、とにかくスコーンにトッピングするクロテッドクリームに並々ならぬ情熱を込めたらしい。
これをとにかく美味しく作りたくて、スタッフさんと一緒にかなり試行錯誤し、やっと納得できる美味しいものができた、とそれはもう情熱的に生き生きとお話してくれるものだから、これはもう食べてみないわけにはいかなくなった。
そんなに嬉々として話してくれたら、もう気になるしかないじゃないか!!
そんなわけで、私と母と義理の妹と3人でオーナーおすすめのアフタヌーンティーをいただいてきた。
甘いものがそんなに好きではない母にとっては人生初のアフタヌーンティー。
飲み物は紅茶以外にコーヒーやジュースなどのソフトドリンクも選べたが、せっかくなので全員紅茶をいただくことに。
あの3段重ねのお皿を見ると、いつだって胸がときめく。
まずは全員の紅茶が到着し、それから満を持してお食事が登場。
下段はサンドウィッチ2種。キュウリと生ハム&チーズ。
中断はプレーンと紅茶のスコーン。トッピングはブルーベリージャム、ハチミツ(地元の養蜂場のとても質の良いものらしい)、噂のクロテッドクリーム、の3種。
上段は、チーズケーキ、カヌレ、抹茶のスティックケーキにフルーツ。
更に、期間限定のセットを注文したので、プラスのデザートにトライフルがついていた。
まずは、キュウリのサンドウィッチで心と空腹を落ち着ける。
楽しみすぎて朝から何も食べてなかったからだ。
これから始まる美味しい時間への心構えとして、あっさりさっぱりシンプルでしゃきしゃきのキュウリを堪能したら、いよいよ噂のクロテッドクリームをいただく。
さくっとかりっとした表面を崩すと、中からふわっとした生地があらわれる。
ふわふわ部にクロテッドクリームをたっぷりつけて口に入れると、バターのような、ミルクのような濃厚なコクがふわっと広がるけれど、口の中でしゅわっと溶けるのと一緒ににあっさりと風味も溶けていく感じ。
濃厚なのに、さっぱりしていて全然くどくない。
飽きないし、もたれないのでついつい手が止まらなくなるやつだ。
2人分で提供されていたので、気を付けないとシェアしている相手の分まで使ってしまいそう。すごく好きな味だ。
ジャムもハチミツも香りが良く、とても優しい味がした。
デザートのお皿のお菓子もどれもすごく美味しい。
特にカヌレは、表面がカリカリで中はしっとりもちもちで食べ応えがある。
あんまり食べたことのないお菓子だったけど、こんなにおいしいものなんだと驚いた。
今度どこかで見つけたら買って食べてみたい。
トライフルは、フルーツがとっても甘くて美味しいし、なんといってもカスタードクリームが卵っぽくてすごく好き!!
もうちょっと味わって食べたいと思うのに、ついがつがつしてしまった。
そして、基本的に甘い味が大半を占める中での生ハムとチーズのサンドウィッチの貢献度が計り知れない。
このサンドウィッチのおかげで最後まで美味しく楽しくアフタヌーンティーできたよ…ありがとう…!!!と感謝したくなる。
甘いものが続くと、やっぱり途中でしょっぱい挟みたくなるよね。
この強めな塩気が最高に良かった。
そんな私の周囲で義理の妹は地元で手塩にかけて作られた優しいハチミツにハマり、母は初めてのアフタヌーンティーなるものを丁寧に味わって楽しんでいた。
つけるべきスコーンを食べ終わってもなお、残ったトッピングのみをいただいてみたが、単体で食べてもやっぱり美味しくて感動的だった。
全員が思い思いにこの贅沢な時間を堪能できたと思う。
素敵な時間だった。
しゅわっと舌の上で溶けたクロテドクリームのあのこってりとしているのにあっさりと退いていく不思議な美味しさを思い出すと、心の底から自信をもってお勧めされるものって、相手の心に何かを残していってくれるような気がする。
世の中にはいろんな "おすすめ" の形があると知ったけど、私はやっぱり自分自身が心から "これはぜひに!!” と思えるものを誰かにお勧めしていきたいなと思った。
それができると、きっと私の心も嬉しいのだ。
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