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時をかける父と、母と

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若年性認知症の父と、がんで逝った母について、30代の私が記録したエッセイ。幻冬舎×テレビ東京×noteのコミックエッセイ大賞にて準グランプリを受賞。
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#母

母を亡くす準備はいつだってできていない -『時をかける父と、母と』Vol.16

『時をかける父と、母と』ー 若年性認知症の父親と、がんになった母が逝くまでのエッセイを連載しています。 Vol.16 母を亡くす準備はいつだってできていない検査結果を聞いてから5日後。外出先から帰ると、家にいた母が痛みを訴えていた。すぐに救急車を呼んだ。 救急隊員に状況説明をするが、経験のないことばかりで私はとにかく焦ってしまっていた。母は痛がりながらも意識ははっきりしていて、「保険証用意して」などと、どこか冷静だった。 母の病院は自宅から少し離れていたため、一度は緊急性

はじめてのお葬式準備-『時をかける父と、母と』Vol.18

『時をかける父と、母と』ー 若年性認知症の父親と、がんになった母が逝くまでのエッセイを連載しています。 Vol.18 はじめてのお葬式準備さて、人が亡くなると、一息ついている間もない。 母の体を病院から霊安室まで送るのを見届けたその足で、その日の夕方から葬儀の打ち合わせをする。喪主は兄で、とにかく兄弟でなんとかしなければならない。葬儀への細かいこだわりが強かった母は、入院中にも細々としたリクエストをしていた。 とにかくいろいろなことが後手に回っていた私たちは、葬儀会社の

母はどこにいるのか問題 -『時をかける父と、母と』Vol.19

『時をかける父と、母と』ー 若年性認知症の父親と、がんになった母が逝くまでのエッセイを連載しています。 Vol.19 父の寂しさが流れ込んでくる告別式を終えた翌日。朝ごはんを食べようかと思う頃に父が起きて来て、なんと喪服を着ていた。「今日お葬式かと思って」という。 昨日終わったじゃん、うまく話してたよ、というと、少し不安そうに、「そうだったかなあ。おれ、うまく喋ってた?」という。 隠し得ない父の寂しさが流れ込んでくる。私だって寂しいんじゃい。 ある日父が、「お母さんの