とある男

1990年代、国鉄からJRに移行したばかり時分のこと。
電車の乗務員をしている、とある50代の哀しき男の物語である。この男はある事情を抱えていた。

この男、40代で長年勤めていた会社をリストラされ、なんとかJRの乗務員に再就職したという。しかし、仕事の覚えが悪く、乗客への対応も誤った対応を連発するので、ベテランの乗務員からは叱責され、20代の乗務員からは陰で笑われる有様だった。

それだけではない。この男、仕事でミスを連発した悲しさからなのか、前職でリストラされたショックからなのか、電車内をあてどなくフラフラしたり、運転停車中にわけもなく電車を乗り降りしたり、駅を走り回ったりと乗務員らしからぬ行動をとっていた。そんな奇行を見た数人のサラリーマンたちは、「こいつが次にどんな行動をするか」という賭けをしながら、嘲笑の視線を送っていたのだ。

こんな有様でも、この男は仕事を辞めることができない。なぜか?それは男には可愛い娘2人がおり、彼女らを養わなくてはならないからだ。

「サラリーマンはつらいよ。男なら60まで働け。途中で辞めるなんてクズだ。JR」

こんな標語が書かれたポスターが余計に男を苦しめる。この男は、一体どうなってしまうのだろう?この話の結末をまだ誰も知らない。                              ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

この話は私が今日、昼寝をしている時に見た夢の話である。本当にあった話だったのか。それともフィクションなのか。はたまた私の未来なのか。この男の顛末を知ろうとした矢先、私は真夏のイヤに生々しい夢から目を覚ました。

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