麻原彰晃『真実!六道輪廻』僕が麻原に学んだこと
概要
麻原彰晃の世界 PART 3
麻原彰晃と高弟たちの瞑想体験が証明する六道輪廻の真実。臨死体験、大霊界などなど、間違いだらけの死生観に終止符を打つ!
著者:麻原彰晃(オウム出版)
僕が高校くらいの時にオウム真理教の事件騒動があった。
デタラメな教義で新興宗教を作り、国家転覆を図ろうとした麻原とオウム真理教。
未来に漠然とした不安を抱えながら、日々退屈な学生生活を送っていた僕は、世間を騒がせる麻原とオウムの動向に興味津々で、今も関心を持ち続けている。
その壮大な野望を実行に移した麻原の智力、行動力、人を洗脳する事に長けた人間的魅力をリスペクトし、もっと知りたいと思っている。
世間的にはもうオウムが起こした事件は過去の出来事でしかなく、麻原の死刑によって終息したような雰囲気があると思うが、後継団体であるアレフの信者たちは未だ洗脳状態にあり、公安の監視を受けながら活動を続けている。
オウムは日本国内より海外の方が信者が多い。
だからアレフのような後継団体はおそらく海外にもたくさんあるだろう。
その中から麻原の意志を継ぐ新しいリーダーが現れれば、またいつでも彼らは国家転覆を狙うカルト集団として機能すると思う。
より深刻になっていく格差社会での政情不安や相次ぐ災害を経て、異世界へ転生するアニメやマンガがブームになり、その他のメディアでもオカルトやスピリチュアル的なものがメインカルチャーとして復活している感じがある。
オウムの事件以前の世紀末も今とよく似た世相で、オカルトやスピリチュアル系のテレビ番組が頻繁に放送され、僕は月刊『ムー』を愛読しながら、退屈な現実世界を離れて非日常的な世界へ埋没していた。
この世の理論で成り立つ社会に弾かれた人たちを救うのが宗教の役目なのだとしたら、宗教は常にあの世(仮想的な)の理論で動く反社会的なものでなければならない。
だから統一教会のように現世利益を謳う宗教は利害が一致すれば国家と癒着し、この世の理論に帰属してしまう。
これでは現実世界の苦しみから逃れたい人たちを救えず、洗脳しきれない。
麻原のすごいところは、来世利益(解脱)を謳って、この世の理論で成り立つ社会と国家に対立した事だ。
僕が麻原から学んだ宗教的洗脳の基本は福は内、鬼は外であること。
コミュニティの中では常に安心、安全、快楽という感情が確保され、コミュニティの外には危険、不安、恐怖があるという状態を入信者たちに思い込ませる。
そのためにオウムは信者たちを教団が運営する施設で共同生活させ、自分たちのコミュニティと社会の間に内と外の明確な壁を設けた。
そして日本社会の中に新しい国家を作り、独自の政治と経済をそのコミュニティ内に発展させ、社会に依存しなくても生存していける環境を信者たちに与えた。
信者たちはそのコミュニティの中で「今生の現実世界はカルマに捕らわれた心が作り出す幻であり、カルマ解消のために用意された修行のステージである」という概念を麻原に刷り込まれる。
本書にあるオウムの世界観は仏教やヨーガの原典を麻原が独自に解釈した輪廻転生の理屈で成り立っていて、瞑想修行で自分が死後に訪れる六道(地獄道、餓鬼道、畜生道、阿修羅道、人間道、天道)の世界を擬似体験して、前世から現世に引き継いでいる自分のカルマを把握し、死後により高いステージに行けるよう、教祖の教えを受けながらカルマを解消する事を目的としている。
最終目標は六道を全てクリアして生まれ変わりのない状態である“解脱”を成功させること。
この世の中の常識や慣習に生きづらさを感じている人たちは、この世の理論に帰属するしかない現世利益よりも、“解脱”のようにあの世の理論に帰属する来世利益の方に魅力を感じやすく、納得もしやすい。
来世に利益があるのであれば、現世での生きづらさや不幸は気にならなくなり、死後や来世がもう未知の領域ではないから、死の恐怖さえも乗り越えてしまう。
洗脳されたオウムの信者たちは死後の“解脱”を報酬に、生きづらい現世を苦行のステージとして楽しみ、味わうことができる。
社会とは切り離された新しい国家の中で、同じ目標を持った人たちと共に生活し、絆を深め、自分の人生の意味と世界の真実を確信する喜びと、盲目的な外の社会に対して優越感を持つこともできる。
死の恐怖を乗り越えた信者は、他人の命に関しても大義名分があれば容易く殺めることができるようになってしまう。
かつての大戦で死後に戦友たちと靖国で再会できる事を国家に信じ込まされた日本兵たちは死を恐れずに敵と戦った。
イスラムの過激派やベトコンにも来世利益を謳った同様の思想があるから死を恐れない。
オウムの地下鉄サリン事件に関しては“ポアの思想”が大義名分となり、麻原のようなステージの高い者がステージの低い者(カルマだらけの一般人)に引導を渡すことによって、ステージの低い者が自分では解消出来ないカルマを清算し、死後に高いステージへ飛び級する救済措置としてテロを正当化する。
でも麻原自身は自分が作った教義を信じていない。
死後や来世、輪廻転生を本気で信じるような妄想癖もない。
全ては打算的に、麻原にとっての理想郷を作る自己実現と、私利私欲の現世利益を目的とした動機で行われている。
暇を持て余した愛着障害者が革命を起こし、英雄になって信者たちに愛されようと努力した結果がオウムという形になっただけ。
麻原の特筆すべき能力は、自分では信じていない神秘的な世界のビジョンを信者たちにはリアリティのある真実として体験させることができた事だと思う。
これは麻原が天性のものとして持っていた能力なのか、体系化された洗脳の方法論をどこかで見つけて駆使したものなのかはわからない。
ただ僕もその能力が欲しい。
だからその能力の実体を解明せずに麻原を死刑にした国家が憎い。
今後のためにも麻原を生かして、彼の能力や精神世界をもっと研究しておくべきだったと思う。
僕もこの生きづらい社会にオウムのような独立国家を作り、信者たちとよろしくやりたかった。
仕方がないから、僕は自分で創作した物語の中でそれを実現させる。