初心に返って「酸化還元反応」を丁寧にやってみた

今年度,研究授業を担当することになり,提案授業の単元を「酸化還元反応」に設定しました。恥ずかしながら,私自身,これまで「酸化還元反応」の単元については,授業時間数を気にしながらとりあえずこなしていくというスタイルで授業をしてきており,生徒のようすを丁寧に見とったり,協働的,探究的な学びをとり入れるなどの工夫があまりできていませんでした。

そこで今年度,研究授業を担当するにあたって,3つの事柄に重点を置いて,単元の授業計画を立てました。1つは単元を貫く問いとして,「酸化還元反応は私たちの生活とどのようなかかわりがあるだろうか」を設定し,生徒に単元を通した学習の見通しをもたせることを意識しました。そしてもう1つは,「探究的な活動」によって,生徒が既習の知識や実験の技能を統合的に活用し考察する場面をとり入れること,さらにもう1つ,「学習内容を振り返る活動」をとり入れ,生徒に学んだ内容の外化と内省を促すこと,そして指導者である私自身が生徒の学習の履歴を見とりながら授業改善をしていくこと,を目指しました(指導と評価の一体化)。

単元計画

単元計画(全20時)
  1)酸化と還元 ・・・・・・・4時間
      ① 単元を貫く問いのプレテスト
        酸化還元反応の復習【演示実験1】テルミット反応
        授業の振り返りシートについて
      ② 酸化還元反応の定義の拡張【演示実験2】銅と塩素の反応
      ③ 酸化数の導入(取り決めの説明)
      ④ 酸化数はどのように決められているか
    2)酸化剤と還元剤の反応 ・・・・・・・5時間
      ① 酸化還元反応を酸化剤と還元剤にわけて表す
      ② 半反応式のつくり方
      ③【実験1】マンガン原子の酸化状態と色
      ④【実験2】酸化剤にも還元剤にもなる物質の反応
      ⑤ 酸化還元反応の化学反応式
    3)酸化還元の量的関係 ・・・・・・・4時間
      ① オキシドールの濃度を決定するための実験計画
      ②【実験3】酸化還元滴定
      ③ 「酸化還元滴定の手引き」をつくろう1
      ④ 「酸化還元滴定の手引き」をつくろう2
    4)金属のイオン化傾向 ・・・・・・・2時間
      ①【実験4】金属のイオン化傾向の違いを見る
      ② 金属の反応性【演示実験3】鉄くぎと濃硝酸の反応
    5)電池 ・・・・・・・4時間
      ① 電池の歴史および原理【演示実験3】ボルタ電池
      ②【実験5】ダニエル電池
      ③【実験6】鉛蓄電池
      ④【実験7】燃料電池
    6)金属の製錬 ・・・・・・・1時間
      ① 鉄の製錬(古代のたたら製鉄 と 現代の製鉄)
        単元を貫く問いのポストテスト
※銅の電解製錬(実験)および溶融塩電解は 単元「電気分解」で行う。

このnote記事を書いている時点では,単元計画がすべて終了してはおりません。酸化還元滴定が終了したところまで実施できております。酸化還元反応のすべての内容が終了時た時点で,先述した3つの重点項目について,どのような成果(課題)があったかいつかどこかでまとめよう(発表しよう)と思っております。そのときはまた告知させていただきます。

授業の実際

さて,ここからは1時間ずつどんな授業を行ったか,スライドに簡単にまとめたものがあるのでそれを添付する形で紹介します。

最初の授業で,生徒に対して,単元の学習前の調査にて「『酸化還元反応』とはどのような反応ですか。」と,「『酸化還元反応』は私たちの生活とどのようなかかわりがあるでしょうか。」という2つの質問をしました。
生徒は中学2年生時に「酸化物から酸素を取りのぞく反応」の単元にて「酸化と還元は同時に起こる」ことを学んでいます。また,「酸化が激しく起こると熱や光を出す」ことも学習しております。生徒の回答には,そのことをうかがわせる記述がみられました。
「酸化還元反応」と私たちの生活とのかかわり,に関しては,鉄が酸化するときに発生する熱が化学カイロに利用されていること,や,金属がさびること,についての記述が多数ありました。なかには,電池の内部の反応,火山ガスから硫黄の生成,鉄の精錬,といった記述も一部見られました。一方,生活とのかかわりについて,全く書けない生徒も少なからず見られました。

酸化数についての授業をしたあとに私が毎年感じていたこととして,酸化数の意味をよく理解しないまま,ルールをただ覚えて機械的に求める,ということをしている生徒が少なからずいる,ということがありました。そこで,今年度は,酸化数の考え方の本質により迫るために,4時間目として,次のような探究課題を設定しました。

教科書のトピック「分子中の原子の酸化数はどのように決められているか」を題材に,電気陰性度の大小関係によって分子内の共有電子対を割り当てる原子が決められる,ということにもとづいて,エタノール中の2つの炭素原子の酸化数について考えさせる活動を行いました。生徒同士の学び合いに任せて,生徒が自分たちで課題を解決するまで見守るような形で進めていきました。この活動を通して,電気陰性度の大小関係がわかれば,原子の酸化数は自分で決められるんだな,ということにスッキリ納得した生徒も多く,ただ暗記をするのではなく,理屈がわかることの大切さに気づいてくれたように思います。

5~6時間目には,半反応式を導入することによって,酸化剤と還元剤の間の電子の授受の量的関係が示されることに触れたのですが,このときの生徒ようすとして,酸化剤還元剤の反応がイオン反応式で表される,ということにピンと来ていないようすがうかがえたのです。生徒が言うには,これまで酸化還元反応といえば,中学時に学んだ「銅と酸素の反応」「酸化銅から酸素を取り除く反応」といったように,固体や気体の物質の反応しか見ておらず,水溶液同士の反応で酸化還元が起こるというイメージがない,というんですね。
なるほど,と,そこで水溶液同士の酸化還元反応例として,過酸化水素水に過マンガン酸カリウム水溶液を加えていく反応を演示してみることにしました。このとき,過酸化水素水に硫酸を加えた場合と加えなかった場合で反応のようすが異なることも見せておきました。この反応のようすの違いは,今日の授業を含め,次の時間以降の伏線になっています。
伏線になっている,というのは,硫酸酸性では過マンガン酸カリウムの赤紫色が消失しますから,反応による色の変化が明確であり,これは裏を返せば反応の終点もわかりやすいということです。また,中性では過マンガン酸カリウムは反応後に4価の酸化マンガンまでしか落ちず,この酸化マンガンが触媒となって過酸化水素の分解を促進して酸素の泡が出続ける反応も同時に起こってしまうため,過マンガン酸カリウムと過酸化水素の間の「正味の」量的関係が正確にわからなくなるよね?と触れておきました。

過マンガン酸カリウムが酸化剤として働くとき,水溶液の液性によってさまざまな酸化数をとり得ることを実験で確認しました。強い塩基性下では,マンガンが緑色の6価のイオンとして存在できます。

過酸化水素水は反応相手によって酸化剤にもなるということを,実験で確認しました。実験では,硫酸酸性にした過酸化水素水を,ヨウ化カリウム水溶液と2価の硫酸鉄水溶液に少量ずつ加えていき,そのときに観察される変化を記録させました。これらの反応は,単純なようで実は複雑です。複数の反応が同時に起こって観察されるからです。
例えばヨウ化カリウム水溶液に過酸化水素水を加えていくと褐色を帯びていくわけですが,この褐色は,過酸化水素によってヨウ化物イオンが酸化されて生じたヨウ素が未反応のヨウ化カリウム水溶液に溶けることによって観察されるわけです。単純にヨウ素が生じたから,ということではないんですね。また,2価の硫酸鉄水溶液は過酸化水素によって還元されて3価の鉄イオンの黄褐色溶液になり,一方で過酸化水素は2価の鉄イオンによって還元されて水が生じます。ところが試験管の中では細かい気泡が発生するわけです。これは生じた3価の鉄イオンが加えた過酸化水素の分解を促進する触媒として働いていることによります。
このように,酸化還元反応は,試薬の組み合わせによっては酸化剤と還元剤の間の単純な反応だけではなく,複数の反応が同時に観察される難しさもあることに,ここでも触れておきました。
こうしてみると,本時のように酸化還元滴定を行うにあたっては,酸化剤と還元剤の間の正味の量的関係だけに注目して利用できる試薬というものが意外に数少ないことがわかります。副反応が起きない,色の変化が明確に観察できる硫酸酸性にした過マンガン酸カリウム水溶液は,まぁ使えるのかなぁ,という感じですね。

酸化剤還元剤の半反応式を,授受される電子の数が等しくなるように組み合わせてイオン反応式や化学反応式をつくる過程について学習しました。反応式の係数の比から酸化剤還元剤の物質量比がわかるわけですが,本時に行った酸化還元滴定において酸化剤と還元剤の反応の量的関係を考えるには,イオン反応式や化学反応式の係数の関係に注目してもいいのですが,酸化剤が受け取る電子の物質量と還元剤が失う電子の物質量が等しい,という視点から考えたほうが,中和反応の量的関係の考え方と同じで生徒にとってはわかりやすいのかもしれません。

さてここからがようやく酸化還元滴定です。題材は,教科書に必ず載っているド定番の「オキシドール中の過酸化水素の濃度決定」です。しかし,教科書の扱いは,改訂のたびに軽くなっていて,実験操作については簡単にしか書かれておりませんでしたので,これまでに習得した知識や技能を統合し,自分たちで計画を立てて滴定してみよう,ということにしました。
生徒たちなりに,実験手順のほか,酸化剤還元剤の量的関係について考えるなどしていました。

1時間ではモル濃度までしかたどり着きませんでしたが,どの班も妥当な結果が出ているようです。空欄の班は,時間が足りませんでした。さてここから質量パーセント濃度に変換するにはどうしたらいいの?と投げかけるところで授業は終わっています。

生徒の学習の振り返りシートです。毎回確認するのは大変でしたが,このやりとりをすることで,生徒の理解の様子がよくわかりましたし,生徒の実態に合わせて僕自身の授業も改善していきながら進めることができたので,これは今後も続けていきたいと思っているところです。

おわりに

以上,単元の途中までですが,授業実践の記録の紹介でした。今後は,イオン化傾向の実験から,酸化還元反応の利用として電池,金属の精錬などの話へつながっていきます。このあたりの実践は3学期になります。年度末には単元全体の実践記録を改めてまとめようとしておりますので,どこかでご報告できればと思っています。
ただただ実践記録を延々と書いただけのnote記事になりましたが,ご意見やご感想などありましたら,twitter(@GwdKCKaPuGZSH9L)を通じてご連絡いただけますと幸いです。

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