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歴代総理の通信簿 八幡和郎

安倍総理大臣が、突然の辞意表明をしたのが8月28日。

ちょうど、こんな本を読み始めたタイミングだったので、ビックリしました。

この本は、2006年に刊行されたものなので、初代内閣総理大臣・伊藤博文から、当時の第56代内閣総理大臣であった小泉純一郎までの評価をズラリと並べた通信簿的一冊。

ランクは、A〜Eまでの5段階評価。

総理在職期間の業績についてのみを評価の対象にしてまとめたものです。

まず、Aランクに評価された宰相は、過去5人。



伊藤博文。

桂太郎。

原敬。

幣原喜重郎。

吉田茂。

池田勇人。



この辺りは、僕の不勉強な政治経済の知識でも、なんとか理解できます。



伊藤博文は、近代日本の枠組みを構築した功績。

桂太郎は、日露戦争を勝利に導いた功績。

原敬は、政党政治を確立させた功績。

幣原喜重郎は、日本国憲法を制定に導いた功績。

吉田茂は、戦後日本の舵取りをこなし、サンフランシスコ講和条約に導いた功績。

池田勇人は、国民所得倍増計画による高度成長をリードした功績。



どの総理も、安倍総理が、喉から手が出るほど欲したレガシーが、燦然と煌めいています。

そして、目立った失政はなかったことも評価の一因になります。



反対に、最悪のEランクは、4人。



大隈重信。

林銑十郎。

近衛文麿。

東條英機。



こちらは、目立った業績はないかわりに、大チョンボがあるだけの総理。



大隈重信の最大のチョンボは、中国に対して突き付けた対華21カ条の要求と、普通選挙の黎明期、フェアであるべき選挙に最悪の干渉をしたこと。

林銑十郎は、何もできなかった腹いせのような意味のない解散で、国会に混乱だけを招いた汚点。

近衛文麿は、三国軍事同盟という、最悪の外交を展開したことによるもの。

東條英機は、開戦そのものは、周囲の声に従っただけという点は認めるとしても、早期停戦には一切耳をかさずに、国民の被害を甚大にしたこと。



真ん中の、B〜Dは、功罪ともにあるという評価。

これは割愛しますが、代表的な総理大臣を3人だけ。

例えば、田中角栄は、Dランク。

日中国交正常化の功績はあるけれど、金権政治もあるのでトントン。

しかし、総理大臣時代のロッキード事件が発覚し逮捕されたので、もうワンランク下げてD。

反対に意外と成績が良かったのが、小渕恵三。

最初は、「凡人宰相」などと影口を叩かれていましたが、地道に難題を片付けてゆき、評価をあげて行きました。

最後には、まずいと思って食べたら、意外と美味かったという意味で、ビートたけしが「海の家のラーメン」と言っていたのは象徴的。

最後は、小泉純一郎。

この人はランクD。

郵政民営化など、わかりやすい政策で、国民を盛り上げる手腕はあって、かっこは良かったけれど、中身がなくて、劇場型で、知性もないという評価。

さて、その後から現在に至るまでの総理大臣は、7人。



安倍晋三。

福田康夫。

麻生太郎。

民主党政権になってからは、鳩山由紀夫。

菅直人。

野田佳彦。

再び自民党に政権が移ってから、第二次の安倍晋三内閣。



さて、その一人一人についての通信簿をつけるような見識を、僕は持ち合わせていませんので割愛しますが、安倍晋三氏についてだけは少々。



とにかく、首相在職日数と(通算、連続とも)と、組閣回数は堂々の歴代トップです。

この意味においては、十分にレガシーは獲得している総理大臣といえますね。

しかし、問題なのは、その中身。

まず外交について。

北方領土問題、北朝鮮の拉致問題などは、在職中の解決を掲げていましたが、結局成果はゼロ。アドバルーンを上げていただけ。

韓国とも、実を無視した感情的な対立をしていただけの幼稚さ。

経済問題は、名前だけのアベノミックスで、上がったのは株価と、国民のストレスだけ。

市場の状況を考えない消費増税などで、デフレスパイラルからは、依然抜け出せないまま。

憲法改正も、事実上任期中の実施は無理。

挙げ句は、憲法学者たちからは、「憲法違反をしているのは、首相自身」と言われてしまう始末。

2015年に、ゴリ押しで国会を通過させた、集団的自衛権を認める法律は、普通に考えれば、完全に憲法違反。

原発の再稼働に躍起になっているうちに、世界の国からは、再生可能エネルギーの分野で完全に遅れをとり(それまではいい線いっていたにもかかわらず)、モリカケ問題、公文書改竄問題、桜を見る会の不正招待問題、河井夫妻の不正選挙問題は、未だ藪の中。(河合夫妻は逮捕されましたが)

そして、極め付けは、新型コロナウィルス対策の、ほとんどギャグに近い失策のオンパレード。

安倍総理の残した、あまりに多い負の遺産の数々に、どうしても通信簿は、ランクEをつけたくなりますが、それでも、百歩譲って、功績も上げてあげなければ不公平というもの。

これだけ長くやっているのだから、考えれば何かあるでしょう。

思い当たることが2つあります。

一つは、官僚の掌握。

考えれば、これは、見事なものでしたよ。

天下の宝刀として利用したのが、内閣人事局による、高級閣僚人事の支配。

思い出してください。

あの民主党政権が期待したように機能しなかった最も大きな理由は、官僚たちの徹底した抵抗にあったからでした。

自民党の築いた政治を根本から変えてやるという気負いが、官僚たちへの上から目線になり、それが徹底的なサポタージュになって、民主党政権はまるで機能しませんでした。

これを野党として外から見ていた、安倍政権が政権奪取後まず行ったことは、官僚人事権の掌握。

とにかく、能力や省内の評判は無視して、安倍内閣のお眼鏡にかなった官僚だけを徴用していくという人事を徹底した結果、官僚たちの間に「忖度」という暗黙のブームを作ってしまいます。

政権の意向に沿った施策を提案していけば、黙っていても、出世できるというシステムを確立させたおかげで、安倍内閣は、いつの間にか、イエスマン的官僚で支えられるようになりました。

これは、考えてみれば、今までのどの政権も達成できなかったことかもしれません。

これは皮肉を込めて。


二つ目。

これは、マスコミの掌握。

これも、マスコミのトップと、こまめにコミニュケーションをとっていくことで、報道する内容を、黙っても忖度させるムードを、巧みに構築していきました。

記者クラブも、ほぼ政権のポチにさせてしまいましたね。

僕は、政治の情報は、意識的にネットから収集していましたが、時々見るテレビ・ニュースとの差に唖然としたものです。

毎日毎日、あれを黙って見ていると、テレビしか見ない老人たちは、ほぼ安倍政権にとって都合の良いニュースしか知らされずに、「今のままでいいんじゃないの」と、知らず知らず思わされてしまうのも無理からぬ話。



まとめれば、安倍政権の最大の功績は、今までにない強大な忖度システムを構築したこと。

これに尽きるような気がします。

もちろん、我々国民にとっては、なんのメリットもない功績ですが、これは、これから続くどの政権にとっても、政権維持のためには便利この上ないシステムになると思いますよ。

今は、安倍バッシングを続けるどの勢力も、いつか政権をとる時には、「うん、安倍君、よくやってくれた」という話になるのではないでしょうか。

政権として、このシステムを活用しない手はないでしょう。



これは全くの私見ですが、安倍総理は、もうかなり前から、総理大臣を辞めたくてしょうがなかったような気がします。

ところが、安倍首相が総理でいることが、あまりに都合がいいものだから、それを許さなかったのは、むしろ官僚側であり、自民党側だったのではないか。

つまり、この人は、総理でいることのみにこだわった人で、自分の力で何かを成し遂げようという理想なり色気は、全くない人だったのかもしれないと思うようになってきました。

憲法改正や、一部のお友達優遇案件以外にはまるで、興味がなかったので、他のことは、大臣や官僚たちに基本お任せ。

自分は、お得意のパフォーマンスで、総理大臣として、そのスポークスマンに徹した。

実は、これこそが安倍政治の実態だったのではないかと思えてきました。

つまり、10年前の民主党政権の全く逆です。

案外、この安倍晋三という人は、無能であるが故に、かえって官僚たちからは重宝がられたという側面があるような気がしてきました。

つまり、神輿として持ち上げてさえいれば、舵は自分たちで好きなように取れる。

これが、安倍政権が長く続いた最大の要因であったかもしれません。

しかし、残念ながら、忖度システムのせいで、あまり質の良い官僚を吸い上げることはできずに、彼らはいろいろと自由にさせてもらえることをいいことに、その目的は、国民の生活に向かうのではなく、ひたすら自分たちの権利の増強と私利私欲に向かってしまった。

これが不幸でしたね。

とにかく、今年に入ってからの、アベノマスクや、Go To キャンペーンなどの、新型コロナ対策における失態を見るにつけ、安倍晋三氏の周囲にいる、ブレーンたちのセンスのなさ、無能さには目を覆ってしまいます。

国会の公開ヒヤリングなどを聞いていても、野党からの質問に、官僚各位はひたすら「ごはん論法」多用の、はぐらかし答弁に終始するばかり。

みなさん、東大法学部ご出身のエリートばかりなのでしょうが、側から見ても、出来そうに見える人は皆無です。

忖度システムによって、日本の中枢を担う官僚たちの中から、優秀な人材を消滅させてしまったこと。

安倍晋三氏はもう内閣総理大臣をやめてしまいますが、この人の長期政権の中で、彼が残した最大の負の遺産は、実はこれだったかもしれません。

現状のところ、次期総理は、ほぼ菅官房長官に決定している模様ですが、彼が引き継ぐということはつまり、今のままの安倍政権がそのまま継続されていくということに他なりません。

面白くもなんともないですが、ある意味では、それもいいかもしれません。

だってそうすれば、間違いなく落ちるところまで落ちますよ。この国は。

多分、そこまでいかなければ、日本という国は、何も変わらない気がします。

やるんなら、徹底的に壊しちゃって下さいね。菅総理大臣。

安倍晋三様。

どうか、奥様と一緒に長生きをされて、あなたがメチャクチャにした、日本という国のモラルの崩壊と、経済の行き着く先を、しっかりと見届けて下さいませ。

本当に長い間お疲れ様でした。

通信簿は、三学期終了の時点で、お渡しいたします。









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